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(241)デート②

~紗彩目線~



 店に入ったイアンさんは、顔を赤くさせながら周囲をキョロキョロと見まわしていた。


 …………なんで、こんなに落ち着かないんだろう?

 周囲のお客さんには、みんな自分たちの話に夢中なのか私達の方を見ている人はいないし。



「…………イアンさん、そんなにキョロキョロとしていると怪しまれますよ」

「…………すまない。ただ、男が入って良いのだろうかと思って…………」

「別に、性別なんて関係ありませんよ。あと、堂々としている方が目立ちませんよ」



 私の言葉に、顔を赤らめながらも小さな声で呟くイアンさん。


 私としては、どうして『男性はケーキ屋さんに入ってはいけない』と思っているかの方が気になるんだけど。


 そう思っていれば、イアンさんがオズオズトメニュー表を渡してくる。

 メニュー表を開けば、いろいろな綺麗なケーキの写真が視界に飛び込んでくる。


 …………しかも、すべてセット。

 パラパラとめくってみても、単品はない感じだ。


 とりあえず普通のケーキは全部食べれる気がしないし、子供用の小さなケーキセットを頼もう。


 そう思いながら写真を見ていけば、子供用のセットのページを見つける。

 その中でも目に留まったのが、『小人のお菓子セット』だった。


 童話にありそうな『お菓子の家』を催したケーキだ。

 プレーンのクッキーで構成されている窓とドアに、チョコレートの壁。

 細いチョコレートや綿菓子、ベリー系の果物で構成された庭。


 うん、可愛い。

 大きさも日本のショートケーキほどで、意外に小さいし。


 これなら食べれる。


 そう思っていれば、店員が注文を聞きに来た。



「えっと、それじゃあこの『小人のお家のお菓子セット』を」

「…………この『森のお菓子セット』で」



 店員さんに見せるように写真を指させば、店員さんが頷きながらイアンさんの方を見る。

 イアンさんが頼んだのは、クリスマスにありそうな横たわっている木を催したケーキだった。


 木のパキパキとした感じはチョコレートで表現され、ベリー系の果物で色とりどりに飾り立てられている。

 写真を見たところ、私よりもチョコレートが多そうなケーキっぽい。






 イアンさんといろいろと話していれば、ケーキが運ばれてきた。


 …………私のケーキとイアンさんのケーキだと、二倍ぐらい大きさが違う。

 これが、この世界の大人用のケーキと子供用のケーキの違い。


 そう思いながら、ケーキの庭にある綿菓子を子供用のフォークで刺して口に入れる。

 フンワリとした感触があっという間に溶けて、お菓子らしい甘みが口の中に広がった。


 特に異世界だからって、味の違いはないみたい。


 続けてお菓子の家から取り外したクッキーを口に含めば、クッキーのほのかな甘さと塩のようなしょっぱさが口の中に広がる。


 なるほど…………甘さに飽きないようにクッキーには塩が少量入ってる感じか。

 夏になると売られる、塩分補給用の塩飴のクッキーバージョンのような味だ。


 塩辛過ぎなくてちょうどいい、甘さに慣れた口直し用のお菓子って感じだ。



「…………意外に美味しい」



 チョコレートの壁を子供用ナイフで切り崩して食べていれば、私の目の前でモグモグとケーキを食べているイアンさんが呟いた。



「こういうのは、食べたことないですか?」

「あまり食べない…………でも、気になってはいた。…………ただ竜人騎士団の本部の近所にあった店は女性ばかりだったから、男が興味を持つのはおかしいのかと」



 私の言葉を聞いたイアンさんが、先ほどまで幸せ絶頂な笑顔からどこか気まずげな表情に変わってしまった。

 そんなイアンさんの言葉に、私は納得した。


 確かに、自分以外の全員が異性だったら入りづらい。



「ああ…………別に気にしなくていいんですよ。まあ、入りづらいと思いますけど」

「うん…………でも、想像以上に美味しい」



 フォローするためにそう言えば、気まずげな表情から再び笑顔に戻るイアンさん。

 フクフクと頬を赤らめながら幸せそうに笑うイアンさんに、思わず心の中で思ってしまった。


 何、この幼女味溢れる幸せそうな笑顔!!

 五歳の子供が大好きなお菓子を貰って笑っている顔にそっくり!!


 顔に出さないようにしながらもそう思っていれば、その後に出てきたイアンさんの言葉に驚きを隠せなかった。







「…………大好きなサーヤと一緒に食べたから、より美味しく感じるんだと思う」

「…………へ?」



 思わず、フォークとナイフをおとさなかった私は偉いと思う。



「…………イアンさん、恥ずかしい事を言わないでください」

「恥ずかしいか? …………キキョウさんも『大好きな人と一緒に何かを共有するとより気持ちが倍増する』って言っていたぞ?」



 羞恥心で熱くなる頬を抑えながら私がそう言えば、イアンさんは首を傾げながら不思議そうな表情を浮かべて言った。



次回予告:デートをする二人のことを見る二人の人物

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