(233)成長と暴露➀
~紗彩目線~
「…………なんと、言えばいいのかしらね。そもそも、こっちの世界とサーヤの世界じゃあ価値観に大きな違いがあるみたいね」
価値観の違い。
セレスさんの言葉に、『それもそうか』と頭の中で納得する。
この世界と日本じゃ、そもそも住んでいる種族も寿命も全く違うんだから。
「番関係になるためのお試し期間は、そもそも他の異性との触れ合いはあまり好まれない期間よ。お試し期間を行っている場合は、周囲にそれを伝えて私生活での異性との関りを最小限に努めるの。だから他の異性と体の関係になるなんて完全に非常識な行動だし、そもそも異性に対して暴力を振るうこと自体最低な行為よ」
セレスさんの言葉に、私は思わず絶句した。
いや、お試し期間だよね?
インフルみたいな感染系の病気とかの隔離期間のように聞こえるのは、私だけですか?
いや、確かに私もDVとか浮気とかは一部だって理解している。
怖いとは思うし、薫姉さんの泣いている姿を見てきたせいか恋愛に対してあまりいい感情は持てないけど。
でも、この世界ってそんなに厳しいの?
恋人の期間って、もうちょっと甘酸っぱいものじゃないの?
「それに基本的に獣人は女性の方が強いから…………暴力を振るった場合は男側が物理的に死ぬと思うわ。というか、男としての人生が死ぬわね。だって女の獣人は子供を育てる体を持っているから、自分の体に少しでも傷をつけたくないっていう本能が働くの。…………だから攻撃されれば、守るために相手の急所も容赦なくつぶすから」
「…………本能の域なんですね」
どこか言いにくそうな表情を浮かべ、顔を真っ青にさせながら教えてくれるセレスさん。
彼の言いづらそうな表情に、私はなんとなくその時に行われるえげつない報復の内容を理解した。
確かに、生物理学上男であるセレスさんとしては口にしたくないだろう。
直接言われなくても、理解できる。
だってセレスさんが、内股になっているから。
とりあえず、わかったこと。
獣人の女性は、物理的にも精神的にも強いということ。
…………というか、そもそも年齢的に大丈夫だったとしても身長面ではどうなるのだろうか?
なんだか、こっちの世界の恋人期間というのは完全にお試し期間って感じだ。
非常に言いにくいが、体とか性癖とかのことも簡単に話し合うらしい。
…………身長差があるカップルって、いろいろと大変じゃない?
私とイアンさんでは、50㎝ぐらいの身長差がある。
その身長差では、明らかに周囲からおかしな目で見られると思うのだけど。
「…………そもそも年齢的に許されたとしても、身長とかその他もろもろの問題だってあるでしょう?」
「…………あなた、気づいていないの?」
私がそう言えば、ありえないと言いたげな表情を浮かべたセレスさんにそう言われた。
そんな彼の反応に、私は思わず首を傾げる。
気付いていないというのは、いったいどういうことなのだろうか?
「サーヤって、身長はいくつかしら?」
「確か…………155㎝だったはずですよ」
私の目の前に移動しながら言うセレスさんに、私は意味が解らないと思いながらも答える。
そんな私に、セレスさんは何度も自分の足と私の頭を見比べている。
なんなんだろう、いったい?
別に一度死んでいるからと言って、身長なんて変わっていないはずだ。
成長期なんて、とっくに過ぎてしまっているし。
そう思っていれば、突然セレスさんによって抱き上げられた。
「え、あのセレスさん!?」
「黙ってちょうだい、舌を噛むわよ!!」
混乱する私に、そう大きな声で言ったかと思えば突然走り出すセレスさん。
バンッと部屋のドアを開けたかと思えば、廊下を走るセレスさん。
もちろん、私は下ろされることはなく抱き上げられたままである。
いや、下ろしてくれない!?
驚きの表情で私達を見る騎士たちの顔が、まるで車の中から見る景色のようにドンドン流れていく。
…………いや、本当にどうしたんだろうセレスさん。
そう思っていれば、急にセレスさんが止まった。
前に押し出されそうになって思わずセレスさんの服を掴めば、セレスさんは左側にあるドアをバンッと大きな音を立てて開ける。
そこは、ジョセフさんがいる医務室だった。
「おや、サーヤ君にセレス君。緊急時以外は廊下を走ってはいけないと」
突然部屋に入ってきた私達に驚いたのか、ジョゼフさんは目を見開いて私達の方を凝視していた。
かと思いきや、顔をしかめセレスさんを叱りジョゼフさん。
「ジョゼフ、何も言わずにこの子の身長を調べてちょうだい」
「…………まったく」
なぜかセレスさんに手渡しのまま、机の前の椅子に座っているジョゼフさんに手渡される。
完全に扱いが、野良猫のような扱いになっている気がする。
次回予告:とうとう、勘違いに気づく紗彩
紗彩「身長が伸びるのなら、もっと早くに伸びてほしかったです!!!!!!」




