(232)恋愛への嫌悪②
~紗彩目線~
「…………それにサーヤって、恋愛話ってあまり好きじゃないでしょ? 嫌なら、断っちゃった方がいいわよ」
セレスさんの言葉に、私は思わず彼の表情を凝視してしまった。
まっすぐしっかりと私の顔を見るセレスさん。
私は驚きで、思わず目を見開いて彼を凝視してしまった。
「…………気づいていたんですか?」
「そりゃあね。気付いていないのかもしれないけれど、サーヤって恋愛小説だけは頑なに読もうとしないもの」
セレスさんの言葉に、『ああ、そういえば』とあらためて思う。
薫姉さんの恋愛遍歴を見てきたからか、恋愛小説を見ても他のジャンルとは違って読みたいという意欲がわかなかった。
だってドロドロとした恋愛を見ているからか、小説を読んでも薫姉さんのなく顔がちらついて小説の世界に集中することができないから。
一度そんな気持ちを無視して読んだけど、結局は主人公たちの絡みも上辺上の偽物としか思えなかった。
「…………」
「…………どうしてか、聞いても大丈夫かしら?」
セレスさんに聞かれ、私は素直に彼に話した。
薫姉さんは、強くて優しい人だった。
薫姉さんの友人も優しい人だった。
でも何故か薫姉さんの恋人となる人は、外聞は良いのにどこかしら問題がある人だった。
重度のマザコン。
重度のパチンコ中毒。
DV。
一番ヤバいと思ったのは、六股した男。
あいつは、発情期中の猿か何かかと思った。
外面は良いくせに、薫姉さんの前に立つと途端に本性を現す。
薫姉さんが傷つくのを見れば、その度に薫姉さんの友人に手伝ってもらってそいつらを社会的に殺した。
これでわかるとおり、薫姉さんは簡単に言えば『男を見る目がない』と呼ばれる部類の人間だった。
「…………でも薫姉さんの恋人が他に女を作ったり、喧嘩の末に逆上した彼氏に殴られた時の薫姉さんは、とても辛そうだった」
恋人ができれば、キラキラと絵本の中のお姫様のように輝く薫姉さん。
でも恋人の本性を知って、傷ついてその度にふさぎ込む薫姉さん。
中には、『学習能力ないんじゃない』なんて最低な言葉をかける奴もいる。
その言葉を聞くたびに思う。
そんな言葉で、薫姉さんを傷つけている行動を正当化するなって。
薫姉さんだって、恋人と別れるたびに友人たちと話しあって行動を振り返って反省会をしている。
そのおかげか、ちょっとずつまともな奴を選べるようになった。
でも、結局はダメだった。
『良い、サーヤ? 男は、絶対に信用しすぎない事。信じたくても、しっかりと周囲の情報も取り入れる事。…………お願いだから、私の様にはならないで』
恋人に裏切られたばかりの時に、そう言って泣いていた薫姉さんの言葉がちらつく。
強くて優しい薫姉さんでも、恋愛面では弱い女の人だった。
だからこそ、私は恋愛ごとは避けるだけ避けた。
だって、薫姉さんですら傷つけられて泣いてしまうんだ。
私がなったら____
「…………なんと、言えばいいのかしらね。そもそも、こっちの世界とサーヤの世界じゃあ価値観に大きな違いがあるみたいね」
深く考え込んでいれば、思わず俯いていたのだろう。
セレスさんの声が聞こえて、私は顔をあげて彼の方を見た。
次回予告:紗彩の叔母の恋愛事情は、異世界では異常としか言えなかった




