(231)恋愛への嫌悪➀
~セレス目線~
買い物から帰り私室に荷物を置いて出れば、ちょうどサーヤがアタシの部屋の前を通るところだった。
「あら、サーヤ。どうしたの?」
「あ、セレスさん…………」
どこか悩んでいるような雰囲気を漂わせるサーヤが心配になって声をかけると、言いにくいことなのか視線を彷徨わせていたからアタシの私室に招き入れた。
サーヤの立場は、あの【神人の森】の一件で『騎士団で保護した子供』から『神人族の子供』に大きく変化していた。
通りでこの世界の常識が通じないはずよ。
そもそも、違う世界で過ごしていたんだもの。
…………正直、かなり複雑ではあるわね。
まだまだ親に甘えたい盛りの子供が理不尽に殺されて、この世界にやって来た。
キキョウ団長という血の繋がりがある家族がいるとしても、やはり心の底から安心できるとは限らないものね。
それにここに来た時の健康状態からしても…………ヤバい訳アリなのは理解できるけど正直ここに来て正解だったのかもわからなくなってしまいそう。
とりあえず、会議ではこの子の種族のことはアタシたち獣人騎士団の幹部とレオン様のみに知らせることになった。
【神人族の子供】なんて情報は公の場に流せばこの子が精神的に辛くなるだろうし、何より魔族の王族が何をしてくるかがわからない。
特に今の王は。
そう思いながら事情を聞けば、どうやらサーヤはイアンちゃんに告白されたらしかった。
でも、サーヤはイアンちゃんのことを異性として見ていなかったからどう判断すればいいのかわからないらしい。
「なるほどね…………あの子、やっと告白したのね」
「え、知ってたんですか?」
正直、話を聞いて思ったのはそこだったわね。
まあ、いろいろとあって時間がなかったのかもしれないわね。
それに竜人騎士団もそろそろ母国に帰るらしいし。
あの死体が降って来るっていう事件も、結局は神隠しじゃなくて【神人の森】の異物を除去しようとする森の動きを利用しただけだったらしいし。
そうなった以上は、犯人も捕まったことでもうここにいる理由はなくなったようなものだもの。
そう思っていれば、アタシの言葉に驚いたような声をあげるサーヤ。
ああ、やっぱりこの子全く気付いていなかったのね。
かなり熱のこもった目で見ていたから、たぶん獣人騎士団だけじゃなくて竜人騎士団の方の騎士連中も気づいているでしょうね。
なんとなく理由を聞けば、年齢のことを言われた。
この子が元居た場所では、恋愛に年齢の縛りでもあったのかしら?
「獣人もそうだけど、基本サーヤにとってはこの世界の住人は長寿よね?」
「はい」
「だから、基本的に恋愛にはあまり年齢とかを考えないの。番関係になった夫婦でも、500歳差とかも普通にいるし。まあ、獣人は獣としての生存本能が強いっていうのもあるけど」
そう説明すれば、サーヤはポカンと口を開けたまま驚いていた。
正直、そんなに驚かれるようなことを言っていないと思うのよね。
それでもこの反応ってことは、それだけこの子のいたところだと年齢に厳しかったのかしら?
「…………私、どうすればいいのでしょうか?」
サーヤの言葉に言葉を返しながらも考える。
そもそも、この子って恋愛に対してあまりいい感情を持っていないようにも見えるのよね。
マイナーすぎるジャンルの小説は結構読むのに、恋愛小説だけは頑なに読もうとしないし。
前に恋愛小説を進めた時も、あまり良さそうな反応じゃなかったし。
でもこの子の反応的には、恋愛が嫌いというよりは怖いとかそっち系の嫌悪の種類ね。
何か心理的な…………例えばトラウマでもあるのかしら?
「…………お試しで付き合えとは言わないんですね」
「アタシにとっては、サーヤの方が大切だからね。…………それにサーヤって、恋愛話ってあまり好きじゃないでしょ? 嫌なら、断っちゃった方がいいわよ」
そもそも恋愛にあまりいい感情を持っていない以上、無理強いするわけにも気軽にお試しをしろとも言えないもの。
それに神人族だってわかっただけで、この子の過去とかは全くわかっていないし。
何がトラウマになっているかもわからないもの。
次回予告:紗彩、自分の恋愛への嫌悪の理由を話す




