(228)死刑
~紗彩目線~
「…………」
「…………イアンさん」
寂しげな目線でジッと大きな壁を見上げるイアンさん。
仕方がないと思いながららも、やっぱり私は放っておけなかった。
神人の森から帰還して、10日が経った。
事件が終わり、忙しかったけれどいつも通りの日常へと戻っていく。
そんな私は、三日前にシヴァさんたちからあることを聞いた。
「切り裂きジャックの死刑執行日が決まった。三日後らしい」
「…………そうですか」
切り裂きジャック。
シヴァさんたちの話では、ジャック君とイアンさんの実の父親。
…………一方的に愛されたことで、大切な物を失い、優しかったからこそ狂ってしまった人。
彼がやったことは許されないだろうけど、背景を知ってしまうと一概に彼だけが悪いとも言えない。
犯人が捕まって良かった。
犯人が罰せられて良かった。
普通なら、そう思えるはずなのに。
この事件に関しては、全く思えなかった。
背景を知っても、全くすっきりしない事件だった。
「…………俺は、正直悲しいとは思えないんだよね。ほとんど家族として関わった事ないし」
空を眺めながら、ジャック君は言った。
…………正直、彼の場合は初対面も良いとは言えなかったのもあるのだろう。
そういえば、昔読んだライトノベルに書いてあった気がする。
『家族に必要なものは何だろう?』という質問。
『絆』?
『愛』?
『情』?
『時間』?
『血の繋がり』?
答えなんて、本人たちにしかわからないと書いてあった。
…………ジャック君と切り裂きジャックの場合は、血の繋がりがあっても圧倒的に時間が少なかった。
しかも、少ない時間に向けられたのは悪意と殺意。
…………いくら血の繋がりがあっても、情も愛も湧かないだろう。
…………なんか、悲しいものだな。
「…………イアンの所、行こ。あいつの方が辛いだろうから」
ジャック君は、どこか悲しげな表情で言いながら私の手を握った。
イアンさんは、すぐに見つかった。
切り裂きジャックの死刑が行われている建物の前にいて、一人で建物を見上げていた。
基本、死刑が執行される建物は被害者や被害者の関係者以外は入ることができないらしい。
加害者の関係者が行った場合は、逆にその関係者がヘイトの対象となってしまうためそれを防止するためらしい。
まったく無関係の者でも、死刑の現場に水を差す可能性があるため入れないらしい。
あとは、死刑の凄惨さもあるのだろう。
処刑方法は、同害報復刑。
加害者は、被害者と同じ方法で処刑される。
被害者が複数いる場合は、殺すたびに一般的には禁術と言われている死者蘇生で蘇生させ、被害者の分だけ何度も蘇生させて殺す。
…………日本だと批判が来そうな方法だけど、被害者やその関係者からすればこの方法ほど恨みを晴らすにはいい機会だろう。
正直『復讐なんて何も生まない』なんて言う言葉があるけど、それは被害者側が決める事だろうとしか思えない。
…………それでも純粋にざまぁみろと言えないのは、イアンさんの哀しげな表情を見ているせいだろうか?
それとも、背景を知っているからだろうか?
「…………父さんがやったことは許されない。どんな理由があろうと」
「…………」
ポツリとイアンさんが言った言葉を、私とジャック君は黙って聞く。
イアンさんは、寂しさと悲しさが混ざった複雑な表情を浮かべていた。
「…………それでも、もっと一緒にいたかったと思うのは…………おかしいのだろうか?」
「そんなことはないです」
イアンさんの言葉に思わず反論すれば、彼は驚いた表情を浮かべて私の方を見る。
家族ともっと一緒にいたかったという想いは、よく理解できた。
いつも通り、嫌な一日が始まると思っていた。
それでも、両親は亡くなっていないからこそいつでも会えると思っていた。
なのに殺されて、気づいたらこの世界に来ていた。
…………こうなるんだったら、会社なんてとっとと辞めて両親とずっと一緒にいればよかった。
この一週間、もう無理なんだと思ってはいても何度も考えて後悔した。
死んだ以上は、生き返ることもあっちの世界に戻ることもできない。
頭では理解していたけど、それでも認めたくなかった。
「イアンさんにとって、あの人は良い父親だったのでしょう? …………なら、もっと一緒にいたいと思うのはおかしなことではありませんよ」
大切だからこそ、一緒にいたい。
大切だからこそ、傷つけられたら許せない。
イアンさんがそう思うということは、切り裂きジャックが本当は優しくていい親だったということだろう。
「…………ありがとう」
イアンさんは、目を潤ませながら静かに笑ってそう言った。
次回予告:紗彩、イアンから告白される!!
~お知らせ~
どうも作者です。
今回から、また毎日更新していきます!!




