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(21)理由

~アルカード(アル)目線~



「団長…………」

「アル君」



 茫然と団長が出ていった会議室のドアを見つめていると、気遣うような声音でジョゼフが話しかけながら肩に手を置いてきます。



「わかっています。団長は、悪意もなく本当のことを言っただけなのです。それでも……何故、団長のような素晴らしい方があんなふうに苦しまねばいけないのでしょうか?」



 団長は、とても素晴らしい方だ。

 若くして団長となり、たくさんの者たちを外敵から守ってきました。

 団長のおかげで命を救われた者は、この騎士団にも街中にもたくさんいます。


 だというのに、何故【ハーフ】というだけで団長が苦しまねばならないのです?

 なぜ、あいつらは今でも団長の記憶の中で団長を苦しめるのです?



「……違う種族同士だと、いろいろある」

「わかっています。わかってはいるんです。それでも、やはり納得できません」



 種族同士で価値観が違うのは、仕方がないのです。

 だって、種族が違えば体質も習慣も伝統も違います。


 それでも、やはり納得できません。

 なぜ、【ハーフ】というだけであいつらは団長を下に見ているのです?

 あんな者たち、実力では団長の下にも及ばないというのに。



「…………はあ、気分悪くなっちゃったわね」

「…………すみません」

「別にあなたのせいじゃないわよ。ただ、団長のことが大好きなのはあなただけじゃないってこと」



 セレスの言葉に、はっとしてしまいます。


 そう言えば、なんだかんだと言ってセレスもまた団長に救われた者の一人でした。

 セレスの方を見れば、ニコニコと口元は笑っているものの目は殺意で血走っていました。



「…………団長、大丈夫かな?」

「大丈夫なわけないでしょ。…………ほんと、あいつら殺してやろうか?」



 ノーヴァがポツリと呟いた言葉に、セレスが殺気を孕んだ声音で返しました。

 …………セレス、あなた本性出ていますよ。

 完全に、男の口調に戻っていますよ。



「落ち着きなさい。…………アル君、なぜあそこまでシヴァ君を推薦したかったんだい?」

「…………団長であれば、実力も身分も問題ありません。それに……」



 私が団長を推薦する理由。


 周りから愛されず良くない環境を強いられてきたであろうあの幼子。

 当たり前のようにもらえるはずの愛情を貰えず、ボロボロの状態であんな強い魔物がはびこるような場所に捨てられた幼子。


 明らかに、厄介の事情を持っているかもしれません。

 だからこそ、あの幼子を守るためには強い実力と身分を持った者を保護者に添えなければいけません。

 

 なにより__



「団長であれば、彼女の気持ちも理解できるのはないかと思ったんです。私は、彼女のような立場ではありませんでした。でも、団長であれば……」



 団長は、幼少期父親の親族から虐げられてきました。

 ただ、狼の獣人の母を持つ【ハーフ】だからと言う理由で。


 確かに、あの種族は自分の種族の血に対するプライドは高いです。

 だからと言って、虐げていい理由にもなりません。


 ですが、あの幼子は周りから虐げられてきたのでしょう。

 私は、幼少期苦労しましたが両親からは愛情をたくさんもらいました。

 彼女の、心境は予想できません。


 もし、私の言葉で彼女が傷ついてしまっては__



「似たような境遇だから、大丈夫だと?」



 ジョゼフの言葉を聞き、私はおもわず言葉を詰まらせました。


 団長だから、大丈夫?

 似たような境遇だから、大丈夫?


 もしや、それは団長に対する侮辱ではないですか?

 いや、違う。

 私は、そう言いたかったんじゃないのです。



「もしかしたら私達よりは彼女の心境がわかるのではないかと思ったんです。団長であれば、彼女の想いを汲めるのではないかと」

「アル君…………気持ちはわかる。だが、無理強いは良くないよ」

「わかっています…………申し訳ありません、頭を冷やしてきます」



 ジョゼフの言葉に、私は頷きながら会議室から出ていきました。


 とにかく、一度頭を冷やしましょう。

 団長に無理強いしても、意味はありません。

 団長もあの幼子も傷ついてしまいます。


 とにかく、一度落ち着いて自分の考えをまとめましょう。


 そう思いながら鍛練場の前を通ると、ちょうど中で鍛練をしていた団長と目が合いました。




 …………どうしましょう、この気まずい空気。

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