(220)叔母
~紗彩目線~
「そうだね…………どこから話そうか?」
目の前に座り込んだ薫姉さんは、首をかしげながらそう言った。
首を傾げると共に、彼女が着ている彼岸花が描かれた着物の裾が揺れた。
目の前にいる薫姉さん__【佐々山薫】は、私とは五歳違いの母方の叔母だった。
『佐々山』と『佐々木』というよく似た名字が理由で仲良くなった私の両親。
10年という長い年月を付き合い結婚を許さなかった周囲にいろいろと我慢できなくなった結果、世間でいうデキ婚という方法で結婚した。
ちなみに周囲が許さなかった理由は、結婚して一緒に生活できるほどの財力がなかったから。
とりあえず、両親よ。
私も、それに関しては正論だと思う。
そんな両親は、母の方の実家に身を寄せて共働きでお金を稼ぎ始めた。
もちろんの事ながら、その間に私の世話をしていたのは母の弟妹である叔父や叔母たちだった。
特に当時末っ子であった薫姉さんは、初めての歳下に興奮してよくお世話してくれた。
だからこそ、私にとって薫姉さんは『親戚の叔母』ではなく『姉』のような存在だった。
…………そんな薫姉さんは十年前、私がちょうど中学を卒業した後に死んだ。
お店を出したいと思っていた薫姉さんは、都会のかなり有名な調理系の専門学校に通っていた。
そんな薫姉さんの元に遊びに行った日、薫姉さんは私が下りるはずだった駅でずっと待っていた。
…………そして、爆破テロに巻き込まれて死んだ。
爆弾があったところが近すぎて、薫姉さんの体はまともな形で戻ってこなかった。
私は下りる駅を間違えてしまって、巻き込まれずに済んだ。
…………誰も、私を責めなかった。
両親も、他の叔父や叔母たちも。
私が遊びに行きたいって言ったのに。
私がすぐに遊びに行けるようにって、終点じゃないその駅を指定したのに。
私がわがままを言わなければ、薫姉さんは死ななかったのに。
…………なのに、誰も私を責めてはくれなかった。
「まーた、変なこと考えてるでしょ」
「変なことなんて」
「私が死んだのは、私のせいでも紗彩のせいでもないわよ」
私の頭を軽い力で叩いた薫姉さんは、困ったように笑う。
「でも」
「でもじゃないわよ。…………ほんとお姉ちゃんそっくりよね、紗彩って」
「…………母さんに?」
「お姉ちゃん、紗彩が自殺したって思ってるわよ」
「は!?」
薫姉さんのお姉ちゃん。
__私の母のことだ。
でも、意味がわからない。
私が自殺?
私は殺された。
あの手の主に。
…………でも、なんで私が自殺ってことになってるの?
「なんで…………」
「…………それも込みで、よく聞いて紗彩」
私の顔を真剣な表情を浮かべて、ジッと私のことを見る薫姉さん。
「この世界には、あの手の主__紗彩を線路に落としてこの世界に連れてきた奴がいるわ」
次回予告:叔母から言われるとある真実
それは、死の裏側だった




