(218)死の記憶➀
~紗彩目線~
カタンカタン。
そんな音と共に、小刻みに揺れているのが感覚でわかる。
目を開け、ぼやける視界で周囲を見回す。
揺れるつり革。
緑色の長い椅子。
真っ黒な窓の外。
「…………電車の中?」
ポツリと、私しかいない空間の中で言う。
何故か、周囲には誰もいない。
時計を確認しても、時間は通勤ラッシュが起こっているであろう時間を示している。
不思議に思いながらもお腹を見れば、そこには何もない。
お腹に刃物が刺さったような気がした。
なのに、なぜか存在していない。
「…………夢?」
今の状況に、思わずそう呟く。
時々、夢を見ると現実なのかわからなくなる時がある。
恐らく、今回もそうなのだろう。
…………見るのなら、もうちょっと面白い夢が良かったんだけどな。
そう思いながらも、駅についた電車から降りる。
頭を何度か左右に振れば、少しだけぼやけていた視界がまともになった気がする。
…………今日も地獄が始まる。
そう思いながら、乗り換え用の反対側のホームに向かう。
この駅は階段を使わなくても乗り換えが可能だから、非常に楽でいい。
疲れた体に、階段を上るほど苦痛なことはないから。
そう思いながら、今では珍しい落下防止の壁のないホームで電車を待つ。
…………そろそろだろうか?
そう思いながらぶら下がっている電光掲示板を見ていれば、冷たい感覚とクイッと何かに引っ張られる感覚に前を向く。
____何もない空間から、赤い指輪が光る真っ白な一本の手だけが存在していた。
その手が、私の右手を掴んでいた。
「…………え?」
驚きで固まった私はそのまま手に引っ張られるまま、気づいたら線路へと落ちていた。
打ち付けた手足の痛みに顔を歪めていれば、次第に周囲が騒がしくなっていくのに気づく。
「おい、女の子が落ちたぞ!!」
「え、自分から落ちたの? 何、ジサツ?」
「とにかく、電車を止めろ!!」
先ほどまでいなかったたくさんの人。
みんなが私を見ている。
どうして?
私は引っ張られて…………。
そう思った瞬間、私を眩しい光が照らした。
____私が最後に見たのは、こちらに迫りくる電車だった。
次回予告:これは夢か?
それとも現実か?
戸惑う紗彩に、とある人物が話しかける




