(20)過去の自分
~シヴァ目線~
会議室から出た俺は、そのまま自分の自室に向かっていた。
アルは、俺があいつの保護者になるべきだという。
だが、俺は他人の愛し方なんて知らない。
実の親から愛されたこともない。
何より、完璧な血筋を持たない俺なんかがあいつの保護者になどなるべきではない。
自室に入れば、すぐに見えたのは姿見用鏡だった。
そこに映っていた表情に、悔しさと呆れが湧き上がってくる。
「くそっ……」
ガッシャン!!
姿見用鏡に映った自分自身の顔を見たくなくて、気づいたときには鏡をたたき割っていた。
ジクジクと痛む拳とは、別の痛みが襲ってくる。
出ていく時にちらっと見えたアルの表情が、頭にこびりついて離れない。
「あんな言い方、したかったんじゃない…………」
わかっているんだ。
アルの言い分は、普通に考えれば正しい。
副団長よりも、団長の俺の方が立場は上だ。
立場の上の者であれば、そうやすやすと手を出すことはできない。
それでも、俺はあいつの保護者になれない。
俺が、もし『あいつら』みたいにあいつに__サーヤに酷いことをしてしまったら?
そう思うと、保護者になることが何よりも怖い。
「ああ、本当に汚らわしい……あのような畜生の子供なぞ」
「本当に…………○○様はお優しすぎるのよ。あんな獣の子なぞ、とっとと捨てるなり始末するなりすればいいのに」
「あら、目を合わせてはダメよ。獣臭が移るわ」
「本当に、なぜ生きているのかしら?あの、獣」
幼少期、父親の親戚に言われてきたことが頭の中でよみがえる。
頭を振っても、声はどんどん大きく複数の声になってくる。
全部、俺を否定する言葉だった。
「うるさいうるさい…………俺だって、あんな奴の元に生れたくなんかなかった」
お袋がいなかったあの頃の俺には、味方がいなかった。
今の俺の義理の親父が俺を引き取るまでは。
親父は、俺を強くしてくれた。
俺が周りの言葉に惑わされて自信がなかった時、強くなることで自信を取り戻させようとしてくれた。
親父のおかげで、俺は騎士団の団長にもなれた。
親父のおかげで、俺は今の自分になれた。
でも、俺は?
俺は、親父のようになれるのか?
親父が幼い俺にしてくれたように、俺がサーヤにしてやれるのか?
「…………はあ、鍛練してくるか。集中すれば、冷静になれるだろ」
自室を出て、鍛練場に向かう。
すれ違う奴は、いない。
当たり前だ。
今日は、本来ならば休日だ。
バカラバッシの討伐と言う緊急任務が入らなければ、休日で書類整理をしていただろう。
ある意味、あの任務が出てよかったが。
鍛練場につけば、ガランとした開けた場所で木刀を振る。
壁にかかっている木の板には、『心頭滅却』の文字が彫られている。
昔、【神人族】が伝えたという言葉の一つだ。
…………今の俺に、最も必要な言葉だろうな。




