(214)神人族の墓②
~ジャック目線~
事態は、俺達が予想していたよりも最悪だった。
俺達が乗った馬車の荷台には、拘束されている人たちが転がっていた。
そのまま息をひそめてアジトであろう大きな家についたはいいけど、俺達が助けようとする前にサーヤが主犯らしい女に刺された。
しかも、そのままサーヤは発動した魔法陣の上にいたことでどこかに飛ばされた。
「いてて…………大丈夫かよ、イアン」
「ああ…………ここは」
なんとか発動したままの魔法陣に入ったけど、気づけば俺達の周りは木々で囲まれていた。
近くにいるのはイアンのみで、サーヤの姿は何処にもなかった。
そんな状況に焦ってしまう。
サーヤは刺されていた。
しかも、サーヤは道具を持っていない。
最悪な状況だった。
「【神人の森】…………クソッ、よりによってここか」
「てか、サーヤは?」
「恐らくだが、別の場所に飛ばされたんだろう。…………これだから、陣は嫌いなんだ」
看板を睨むイアン。
確か魔法陣って大人数で一度に移動可能だったけど、移動できるのは一緒にいる人間だけで時間が別の場合は別々の場所に出るんだっけ?
…………サーヤと俺達じゃ、時間に少しの間があった。
だから、サーヤは別の場所に飛ばされたのか。
ていうか、それってかなりヤバいじゃん!!
「とりあえず、すぐに探すぞ!! もがっ」
「大きな声を出すな。墓守に見つかる」
「…………墓守?」
心配と焦りで大きな声を出せば、イアンに口をふさがれて睨まれた。
どこか焦っているイアンの小声で言った言葉に、思わず首をかしげる。
【墓守】って、言葉からして墓を守る存在だろ?
それに、今の状況はかなり危険だ。
俺たち以外にも誰かがいるんなら、その人にも協力を頼んだ方が気がする。
「この森を守っている番人だ。別名、【守り人】とも呼ばれている」
「見つかっちゃ、ダメなのか? サーヤは刺されていたし、逆に助けを求めた方が」
「墓守は、自分が守るべき存在__神人族や同胞以外に対してはかなり過激な思考を抱いている。【神人の森】を汚す存在は、たとえ同じ種族といえど汚物として処理する。…………神隠し事件の被害者がここに送られたのなら、おそらく被害者は全員生きていないだろう」
イアンの言葉を聞いた瞬間、言葉には表せない怒りが込み上げてくる。
意味が解らない。
そんなヤバい奴らがいるのに、なんで竜人の国も精霊の国も放置しているんだよ。
それに神隠し事件…………いや、本当に神隠しなのかもわからない。
今回の誘拐と何か関係があるかもしれないけど、なんで行方不明者がいるのに放置するんだよ!?
普通住民がいなくなったら、動くのが騎士団じゃねぇのか!?
「!? …………んなヤバい奴がいるのに、国は何もしないのかよ」
「ここは、神人族の墓__一種の聖地でもある。半分が竜人の国とはいえ、ここでは法律なんて関係ない__一種の無法地帯だ」
「なんでだよ」
「この森自体が、奴らの腹の中だからだ」
焦りなのか、早口にそう捲し立てるイアン。
この森自体が奴らの腹って言うのはよくわからないけど、とにかく今の状況がサーヤの怪我を抜きにしても危険なのはよくわかった。
とにかく、早くサーヤを見つけてこの森を出なければ__。
そう思っていると、か細いけど聞き覚えのある声が聞こえてきた。
どこか泣きそうな声。
__サーヤの声だ!!
その声に向かって、全速力で走る。
後ろからイアンの声が聞こえたけど、今はそれよりもサーヤの声を聞き逃さないように集中する。
しばらく走っていれば、地面に横たわる影が見えてきた。
そこにいたのは、真っ赤な水たまりを作っていたサーヤだった。
真っ青な顔色で、倒れているサーヤ。
なんで?
なんで、動かないの?
サーヤにフラフラと近づく。
サーヤは動かない。
サーヤ、起きてよ。
サーヤ、なんで動かないの?
ねぇ、サーヤ__
サーヤに手を伸ばした瞬間、ドンッと背中に衝撃が走った。
「大丈夫…………大丈夫…………」
「…………え?」
「息を吸え」
背中に温もりを感じて、言われた通りに息を吸う。
息を吸えば、見計らったように「吐け」と言われる。
それを繰り返していれば、誰かが俺の目をふさぎ、俺の頭を撫でながら後ろから抱きしめている。
温かいな。
そう思っていれば、少しずつ落ち着いてきた。
「…………落ち着いたか?」
「あ…………ああ…………」
後ろから俺を覗き込んだのは、イアンだった。
さっきまでの温もりも。
優しい撫でる手も。
____全部がイアンだった。
それを知った途端、急激に頬が赤くなるのを感じた。
…………ヤバい、普通にかっこ悪い。
思わず恥ずかしくて視線をずらせば、見えたのは真っ白なカットされた墓らしき石と女性が写っている写真。
___て、は?
墓らしきものに飾られている写真を見て、俺は思わずそれを凝視した。
「…………なあ、あれって墓だよな?」
「ん? ああ」
凝視しながら、後ろにいるであろうイアンに聞けばそんな答えが返ってくる。
「…………なんで、墓に飾ってある写真にサーヤが写っているんだ?」
「は?」
墓に飾ってある写真には、今よりも少し大人びたサーヤが笑顔を浮かべて写っていた。
次回予告:墓に飾ってある写真の謎
だが、事態は思わぬ人物の来訪に急変する




