(213)神人族の墓➀
~紗彩目線~
痛い、熱い、痛い!!
刃物が刺さっていると理解した瞬間、言葉では言い表せないような痛みが襲ってきた。
思わずうずくまる。
痛い!!
痛い!!
痛い!!!!
お腹がジクジクと痛む。
それと同時にお腹が熱い。
遠くで妹さんの笑い声が聞こえてくる。
「もう…………だから、言ったでしょ?」
すべては聞き取れない。
でも、心底愉快だと言いたげな声だった。
その声を聞いた瞬間、痛みを感じなくなった。
いや、確かに痛い。
でも痛みよりも、苛立ちの方が大きくなっていった。
…………予防接種の時に言われた、他のことに集中していると痛みを感じないって本当の事だったんだ。
そう思いながらも、服の中を必死に探る。
何か。
何かないの!!
この理不尽女に一矢報いれることのできる物は!?
そう思っていれば、少し遠くに紐らしき物が見えた。
…………そう言えば、私の個有スキルの特性に!!
思い出した瞬間、私は紐に向かって這っていた。
糞女の馬鹿にするような声が聞こえてくるけど、それを無視する。
紐、それに粘着性と風魔法。
痛みに耐え、頭の中で構想を練っていく。
そして、紐を掴んだ瞬間だった。
「な、何よこれ!!」
個有スキルを使い魔法を込めた紐は、まるで刺激された蛇のように糞女に襲い掛かった。
自動で拘束していく紐から逃げようと暴れるけれど、そもそも粘着系も付与しているから意味がない。
「はは…………ざまーみろ。何が特別だ…………こんな特別なんていらない。あんたみたいな、理不尽の塊もいらない」
「ふざけるな!! ふざけるな!! お前なんて、いらない!! お前なんて、死んでしまえ!!」
糞女が叫んだ瞬間、床が光った気がした。
気がつけば、森の中だった。
「…………魔法陣的なもの?」
思わずそう呟いたけど、ズキリとお腹が痛む。
…………そう言えば、刃物が刺さったままだった。
そう思いながらも、必死で頭を働かせる。
なんだっけ?
確か尖った物が刺さった時は、刺したまま病院に行くんだっけ?
太い血管に達している場合は逆に蓋代わりになって、抜いた瞬間出血多量であの世行きだっけ?
「とにかく…………逃げなければ」
魔法陣だか何だかわかんないけど、とりあえず離れるしかなさそう。
ここにいても、追撃される可能性があるし。
そう思いながら、なんとか立ち上がる。
「森…………神人族の墓?」
フラフラと歩いていれば、そう書かれている石碑を見つけた。
神人族の墓…………ここは【神人の森】か。
つまり、あの部屋自体が神隠し事件の動かぬ証拠的なものか。
…………はあ、最悪。
そう思っていると、遠くで誰かの声が聞こえてくる。
聞き覚えのある、温かな声。
あの糞女の声ではない。
どこかで聞いたような、優しい声。
そう思うと、クラリと視界が歪み思わず転びそうになる。
…………ヤバい。
意識が朦朧としてきた。
とにかく、まずは助けを呼ばなきゃ。
そう思い、声のする方へと向かった。
「…………嘘」
歩いた先にあったのは、写真立てが飾られた墓石だけだった。
誰も、いない。
声の主もいない。
「嘘だ…………嘘だ!! 嘘だ嘘だ…………噓だあ!!!!」
お腹が痛い。
嘘だ。
信じられない。
「なんでなんで」
目の前の光景が信じられない。
だって、あるはずがないんだ。
ここにあるはずがないんだ。
「なんで…………貴方がこんな所に」
なんで、あの人の写真がこんな所にあるの?
そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
次回予告:所変わって、ジャックたち
ジャックたちは、不思議な家を見つけた




