(212)神隠しの真相
~紗彩目線~
「んん…………」
「気が付いたかしら?」
何かに包まれるような感触に身をよじりながらも目を開けば、にこやかに笑っている見覚えのある女性が立っていた。
…………うん?
女性の姿に、私は思わず首をかしげてしまいそうになった。
「貴方は、確か…………アルさんの妹さん?」
「もう、お母様でいいのに」
私の言葉に、困ったような表情を浮かべるアルさんの妹さん。
正直、今の状況が全くわからない。
確か、私はシヴァさんの部屋で道具の手入れをしていたはずだ。
…………そこで。
ジッと考えていれば、思い出せた。
窓の外に【赤色の鳥】を見たんだ。
…………いや、あの雰囲気や大きさからして鳥というよりは鴉だ。
なんというべきか、鴉の独特の雰囲気を感じた。
そして【赤色の鴉】の視線を感じて目を合わせて…………そこから記憶がない。
あの鴉に、何かあったのだろうか?
というか、今の状況って誘拐になるんじゃないのか?
「何故、こんなことを? 合意なしに連れて行くのは、誘拐という犯罪行為ですよ」
「あら、犯罪行為なんてしていないわ。私は、ただ可愛い娘を連れてきただけだもの」
私の言葉に笑う妹さんが、なんだか別の生き物に見えてしまう。
…………いや別の生き物というよりは、幼い子供だ。
まったく、罪悪感がない。
何が悪いのかも理解していない子供だ。
見た目が大人だからこそ、中身と見た目がちぐはぐで別の生き物に見えているのかもしれない。
そう思っていれば、ふと視線の端に何かが見えた。
それを見れば、それは意識を失ったまま拘束されている人たちだった。
しかも、その数は一人・二人ではなく十数人はいる。
明らかにお姫様が使うような、豪華展覧な部屋の中では浮きまくっていた。
「彼らは」
「うふふ、彼らは私の願いを叶えるための大切な小道具たちよ」
「は?」
妹さんの言葉に、私は呆気に取られてしまった。
小道具?
明らかに生きている人に対して、なんて言葉で表現しているんだ?
まるで純粋な子供が、欲しい玩具の代わりだというように簡単に言ってのけた。
それと同時に思い出すのは、キキョウさん達との会議の内容。
「…………まさか、神隠し事件って」
「うふふ、私が起こしたものよ。だって、私は神人族の生まれ変わり…………神人族の巫女なのだもの」
まるで歌うように言った妹さんの言葉は、そのままの答えだった。
意味が解らない。
日本人が、この世界では神人族だと呼ばれているのは知っている。
でも、なんで。
なんで生まれ変わりってだけで、そんな他人の命を物のように扱えるの?
「私は特別なの。なのに、私の個有スキルはあんな可愛げもないもので…………なら神に生贄を渡して変えてもらうしかないじゃない?」
「そんな理由で」
「そんな理由じゃないわ。だってこんな個有スキルがあるせいで、全然お兄様たちには愛されないんだもの。なら、もっと私に必要な物に変えなくてはいけないでしょ? それに、神人族は特別だもの。なら、私も特別よね?」
意味が解らない。
何を言っているんだ、この人は。
個有スキルは…………正直ジャック君のことがある。
私にとっては都合がよかったものだけど、人によっては持つこと自体が不幸だった人もいたはずだ。
ジャック君も、そのことで苦しんでいた。
でも、彼は彼なりに向き合っていた。
なのに…………なんでこの人は…………
「神人族の人たちだって、きっとかっこいい男の人や綺麗な女の人を侍らせたに違いないわ。なら、私にもその権利があるはずよ。ちゃんと、楽しまなきゃ」
「ふざけないで!!」
妹さんの言葉を聞いた瞬間、私は気付いたらそう叫んでいた。
ふざけるな!!
ふざけるな!!
ふざけるな!!!!
何が、侍らすだ!!
何が権利だ!!
何が楽しまなきゃだ!!
誰も知っている人がいない。
それが、どれだけ不安で寂しいのか理解していない癖に!!
好きなアニメの話を友達と話せない!!
今まで当たり前のようにいた親と会話できない!!
母さんの暖かなご飯を食べれない!!
父さんとのんびり穏やかな時間を過ごせない!!
どんなに仲良くなれても、結局はどこか孤独を感じる!!
どんなにご飯がおいしくても、心のどこかではそれが寂しい!!
馬鹿なことで笑い合っていた友達とも、その繋ぎだったスマホがなくて話すこともできない!!
何が特別だ!!
私の故郷を返せ!!
日本に帰せ!!
家族を返せ!!
友人を返せ!!
何が異世界だ!!
私が何をしたって言うんだ!!
ただただ、行きたくもない会社に行っていただけなのに!!
なんで、私がこんな目に合わなきゃいけないんだ!!
「あの人たちが、本当にそうしていたとでも思っているの!! 実の親とも大切な友人とも引き離されて、孤独を感じて泣いていたかもしれないでしょ!!」
私が、そう叫んだ瞬間だった。
「え?」
「もう駄目よ…………お母様にそんな乱暴な言葉を吐いては」
目の前には、笑う妹さん。
その妹さんが離れた瞬間、お腹に何か異物感を感じた。
あれだ。予防接種の注射を刺して、薬が体内に入った時のような…………。
そう思いながらお腹を見た。
____私のお腹には、刃物が根元までズップリと刺さっていた。
次回予告:刺されてしまった紗彩
危険な状況下、紗彩は必死で反撃する
 




