(210)誘拐➀
~ジャック目線~
イアンのとんでもない発言から、三日がたった。
何故か、俺はイアンと共に騎士団の玄関前に立っている。
しかも、二人とも私服ではなく軍服という。
しかたがない。
こいつは、私服を持っていないし。
…………なんで休日なのに、こいつと出かけることになっているんだよ。
「なんで、俺がお前と……」
「…………俺としては、仲良くなりたいという意味もあってだな」
「わかってるって」
俺が呟いた言葉に、ご丁寧に答えてくれるイアン。
別にそれはわかっている。
イアンなりに、俺と仲良くなりたいってことぐらい。
ただこいつが三日前に言った言葉が強烈すぎて、純粋に楽しめる気がしない。
そう思っていれば、少し先を歩いていくサーヤを見かけた。
その表情は、何処か思いつめたような表情だった。
「ん? あれは」
「サーヤだな…………って」
どこか思いつめたような表情のサーヤが心配になり慌てて追えば、ちょうどサーヤが馬車の中に引きずり込まれるところだった。
おいおい、誘拐は犯罪だろうが!!
「おいおい、あれって人攫いって奴だろ?」
「…………誘拐は犯罪だぞ」
「んなもん、知ってるっての!!」
ボソリと言ったイアンの言葉に小声で返しながらも、周囲を見回す。
サーヤは道具なしじゃ戦えない。
見たところ、道具が入っているバッグを持っていなかった。
ということは、サーヤには戦う術を持っていないようなものだ。
そう思いながら周囲を見回せば、私服姿の騎士が一人近くを歩いているのが見えた。
たしかグレイとかいう、最近入った何故か影の薄い騎士だったはずだ。
「サーヤが誘拐された!! 悪いが、団長たちに伝えてくれ!!」
「…………わかりました」
俺の言葉に頷くグレイを放置して、イアンと一緒に馬車に向かって走る。
連れ込まれた以上、俺達だけで助けれるとは思えない。
相手の個有スキルもわからないし、何よりあちらにはサーヤと言う人質がいる。
意識の有無もわからない。
なら、下手に犯罪者を刺激しない方がいい。
「行くぞ、イアン」
「おい、どうするつもりだ?」
「どうする? 決まってるだろ。あの荷台に忍び込むんだ。サーヤは、戦えないんだぞ」
イアンに声をかけながら、獣化して元の小型犬の姿に戻る。
そんな俺に合点が行ったのか、イアンもまた人型を解いて小型の竜の姿に変身した。
「…………なるほど、変身を利用して体を小さくさせるのか」
「それ以外、方法はない」
俺やイアンぐらいの小ささなら、馬車の後ろにある荷台に紛れ込んでもバレることはない。
この部分だけは、この小ささに感謝だな。
そう思いながら、荷台に忍び込む。
にしても、馬車に描かれている家紋ってどこかで見たような…………?
次回予告:紗彩の誘拐を知るシヴァ
グレイの情報から犯人がわかるが、一同(特にアル)は頭を抱えてしまった




