(205)神人とは?
~紗彩目線~
「やあ、人の子」
「…………キキョウ団長」
後ろから、私に話しかけてくるキキョウさん。
彼に話しかけられた瞬間、さっきまでの微笑ましい気持ちが何処かに行った。
その代わりに、警戒心がむくむくと沸き上がってくる。
というか、何でこの人ここにいるの?
セレスさんは『団長達』と言っていたし、恐らくだけどその中にはこの人もいるはず。
「…………ジャック君とイアンさんでしたら、第一執務室に向かいましたよ」
もしかしたらこの二人を探しに来たのかと思い、そうキキョウさんに言う。
正直、私の事を『人の子』と呼ぶこの人からすぐにでも離れたかったけど、そんなことをしたら変に怪しまれるだけだ。
「おや、教えてくれてありがとう。…………そうか、一緒にいたのかい?」
「はい」
「ふふふ…………仲良くなれたようでよかったよ」
キキョウさんの問いに頷けば、微笑ましいといいたげに優しく笑うキキョウさん。
…………仲良くなれたのか、あれ?
キキョウさんの言葉に、私は警戒するのを忘れて思わず首をかしげてしまった。
まあ、確かに素直になれない子供(ジャック君)と不器用な子供と考えれば微笑ましくも見える。
というか、この人いつまでここにいるつもりなんだろう?
「…………行かないのですか?」
「うん? ああ、そうだね。ねぇ、人の子」
「…………なんですか?」
「君は、神人族がなぜ神人族と呼ばれているか知っているかい?」
キキョウさんの言葉に、私は思考を停止させてしまった。
神人族。
過去にこの世界にやって来た二人の日本人。
『人の子』と呼んでくることからもしかしたら何か勘づいているのかもとは思ったけど、まさか直球で来るとは思わなかった。
そう思いながらも、表情に動揺が行かないように顔に力を入れる。
「…………たしか、この世界の神様が連れてきた種族ですよね? 神に最も近く、神と最も親しい種族って言われているという」
「そうだね。一般的には、そう言われているね。でもね、本当は違うんだよ」
私の言葉にそう返したキキョウさんの顔は、どこか悲しげで寂しげな表情だった。
どうして、そんな顔をしているのだろう?
そもそも、キキョウさんは神人族の何を知っているのだろうか?
私は、そんな表情を浮かべる彼を目の前にしてそうとしか思わなかった。
最低なのかもしれないけど、やっぱり私としては目の前の人の心配よりも自分の身の心配の方が優先度は高かったし。
「神人族とは、何をもって神人族と証明されるかわかるかい? 前世の記憶を持っているか? 違うよ」
キキョウさんがそう言った瞬間だった。
ガッと強い力で、しゃがみこんだキキョウさんに両肩を掴まれた。
目の前に迫るキキョウさんの綺麗な顔。
でもその顔には、いつもの優し気な笑みではなくどこか焦りのような表情が浮かんでいた。
「ねぇ、君は神人族なのだよね? 彼女が望んでいた__」
「爺さん」
キキョウさんが慌てた表情でそう言った瞬間、廊下の向こうから歩いてきたロルフさんの声が聞こえてきた。
ロルフさんは、首をかしげながらキキョウさんを見ていた。
「イアンたちが戻ったぞ」
「…………うん、そうだね。それじゃあね、陽の子。また、今度話そうか」
ロルフさんの登場に冷静になったのか、キキョウさんは私の肩を話して立ちあがった。
私に背を向けて歩いていくキキョウさんに、思わず私は床に膝をついてしまった。
ドクンドクンと、早鐘を打つ胸を抑える。
「…………いったい、どういう意味なの?」
誰もいない廊下で、私はそう一人で呟く。
――――『君は神人族なのだよね? あの人が……彼女が望んでいた』――――
頭の中で、先ほどキキョウさんに言われた言葉が流れる。
私のことを神人族だと、しっかりと認識している声音だった。
恐らく、彼は最初から私が神人族__異世界から来た日本人だということに気づいていた。
でも、しっかりとした確証も証拠もなかった。
だから、私と二人きりの時だけ『人の子』と呼んだ。
でも、彼女って?
言葉からして、『彼女』と言うのは恐らく神人族の女性。
キキョウさんは、その『彼女』と何らかの親しい関係にあった。
…………でも、神人族の女性と言えば名前からして『カオル・ササヤマ』と言う人だろう。
まさか__
「…………違う。きっと、同姓同名の人だ。そうとしか、思えない」
頭の中に一瞬よぎった考えに、慌てて頭を振る。
そうだ。
あるはずがない。
そんなこと、あるはずがないんだ。
次回予告:所変わって、第一執務室
とうとう明かされる真実




