(204)イアンの赤面④
~紗彩目線~
「ああ、ここにいた」
口論をしている二人を観察していれば、廊下の奥からセレスさんが近づいてきた。
セレスさんは私の方を見ると笑ったけど、二人の方を見ればため息を吐きながら頭を抱えた。
…………お疲れ様です、セレスさん。
「ちょっと、あなた達何をやっているのよ。団長たちに、第一執務室に集合って言われているでしょう?」
「あ」
「…………忘れていた」
「忘れないの…………顔赤いけれど大丈夫かしら?」
呆れたように言うセレスさんの、完全に忘れていたらしい二人。
そして何故か未だに頬を赤らめたままのイアンさんに、セレスさんが心配した声で言う。
確かに初めて会った時もそうだったけど、会うたびになぜか顔が赤い。
…………他の人はそうでもないけど、これがこの人の個性なのだろうか?
セレスさんの言葉に、イアンさんが首をかしげながらも無表情で言った。
「…………大丈夫だ」
「は? 風邪引いたのかよ。うつすなよ」
「ひいてない」
イアンさんの言葉に、うろんげな表情で言うジャック君。
そんなジャック君に、無表情のままで反論するイアンさん。
ジャック君、そんなこと言っちゃいけません。
嫌いなのかもしれないけど、せめて形式上でもいいから心配の言葉ぐらいかけなさい。
…………なんか、ジャック君って中学生の男子っぽいな。
(*ジャックの年齢は、元の世界では16歳です)
「…………よくわかんないけどよ、キツかったら団長たちに言えよ。途中で倒れても迷惑なだけだし」
「…………ああ」
頭をかきながら視線をイアンさんから外すジャック君と、そんなジャック君に目を見開くイアンさん。
…………なんか、ほほえましいな。
とりあえず、わかったこと。
ジャック君も意外に恥ずかしがり屋だと言うこと。
あと、イアンさんはなんで時々私の事を見るだろうか?
見るのなら、ジャック君を見なさい。
「…………なーるほどねぇ」
そしてそんな二人をほほえましいと思ったのは私だけでなく、いつの間にか私の隣に移動していたセレスさんもだった。
何故かセレスさんは、ニヤニヤと笑いながらイアンさんを見ている。
まるで、面白そうなものを発見したと言いたげな笑顔だ。
…………セレスさん、ジャック君をからかっちゃダメだよ。
たぶん、拗ねるから。
前みたいに、廊下の隅っこで体育座りで拗ねるから。
「じゃあ、連れていくわね」
「じゃあな、サーヤ」
「…………じゃあ」
いつの間にか移動したのか、物凄くいい笑顔で二人の首根っこを掴んでいるセレスさん。
そして掴まれている二人はといえば、のんきに私に向かって手を振っている。
ズルズルと引きずられていく二人と、引きずっていくセレスさん。
…………やっぱり、幹部って強いんだな。
いろいろと。
「やあ、人の子」
「…………キキョウ団長」
そう思っていれば、背後からキキョウさんにそう話しかけられた。
…………何で、この人ここにいるの?
次回予告:キキョウと話すサーヤ
彼の言葉の真意とは?




