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(18)子供の気持ち

~ジョゼフ目線~



 俯いていたサーヤ君は、ポツリポツリと話し始めた。


 恐怖を感じ、自身の死を感じ、餓死することを想像したこと。

 バカラバッシに襲われ、動けず死を覚悟したこと。

 シヴァ君とアルカード君に助けられ、人に会えたことで安心したこと。

 言葉が通じなかったこと。


 サーヤ君の声が、少しずつ大きくなっていく。


 いつも通り行動していたはず。

 会いたくもない人にも会っていた。

 自身の行動に後悔し、やり直したいと思った。

 言葉も通じず、気づいたら見知らぬ森の中にいて、あまりにも理不尽すぎる。



 サーヤ君の話を聞いていると、とても心が締め付けられる。

 いつも通りの行動をしていたはずの彼女は、なぜか言葉の通じない見知らぬ土地にいた。


 どれほど、心細かっただろう?

 どれほど、不安だっただろう?


 自分の死を覚悟したとき、彼女はどう思ったのだろう。

 あまりにも幼く、だけど本来の年齢であれば親や周りの大人に保護され愛されて育っているはずだというのに。



 そんな彼女を見ていると、なぜ幼い子供たちがこんな風に傷つかなければいけないのだろうと思う。

 ただ、生まれた場所を間違えただけで。

 

 世の中には、子供が欲しくても授からない者が多い。

 少子化が進んでいる今、子供は簡単には授からない存在となってしまった。


 子供は、心から愛し欲している者こそが持つべきだ。

 この子も、シヴァ君も。




『…………後悔してるんだ』

「後悔?」



 サーヤ君の言葉に、思わず聞き返してしまった。

 

 この子は、いったい何を後悔しているというのだ?

 この子の今の状況は、周りの者たちからもたらされたもの。

 彼女が行動した結果ではないというのに。


 サーヤ君は、後悔している理由を思い出しているのか悲しげな雰囲気を漂わせている。



『母さんと喧嘩しちゃったんだ。母さんは私のこと心配していたのに、寝不足とか嫌なことが重なってイライラしててうるさいって、怒鳴っちゃった。…………こんなことになるのなら、もっと話しておけばよかった』



 …………ああ、彼女にも味方となる大人がいたのだな。


 彼女の悲しげな呟きを拾って、私は素直にそう思ってしまった。


 寝不足からの苛立ちは、誰にでも起こることだ。

 そして、その苛立ちを他者に当たってしまうことは大人ですらある。


 そのことを反省せず開き直る者すらいるが、彼女はしっかりと反省できる。

 優しく、そして真面目な子供だ。


 彼女が、まっすぐに育ったのは彼女の母親のおかげなのだろう。

 きっと、彼女の周りは彼女に理不尽なことを強いてきたかもしれない。

 でも、彼女の母親だけは彼女の味方だった。


 心のどこかでホッとしてしまった。

 シヴァ君を育てた狼の獣人の青年たちのように、彼女にも味方がいたという事実に。


 だからこそ、彼女には笑っていてほしい。

 きっと、彼女の母親は彼女を守ろうとしてたのだろう。

 今この場にはいないけれど、彼女の母親も彼女が幸せに笑顔で生きることを望んでいただろう。


 悲しんでいる彼女に、私はこのままではいけないと思った。

 彼女はこのままでと、ずっと後悔したまま止まってしまいそうだった。



「…………誰だって、後悔することはある。それは私だってあるし、他の者たちにもある。それでも、後悔ばかりしていては前に進むことはできない」



 私の言葉に、サーヤ君は驚いた表情で俯いていた顔をあげた。

 もしかしたら、私が後悔することが意外だったのかもしれない。


 でも、そう思わせてしまうのは仕方がないのかもしれない。


 私は、騎士団の中では年長の方だ。

 医師としても、騎士たちの健康に気を使わなければいけない。

 何より、年上として下の者たちに舐められたくないと思う。

 

 だからこそ、いつだって余裕がありドンと構える姿勢でいる。

 上の者たちがそうでなければ、下の者たちは不安を抱いてしまうからな。



 後悔するのは仕方がない。


 誰だって完ぺきではないのだから、間違いだって犯してしまう。

 それでも、そこから這い上がるかそのまま堕ちていくかは本人の行動次第だ。

 諦めてしまえば、そのまま堕ちていく。

 諦めずに這い上がろうと抵抗すれば、きっとその結果は未来につながる。


 だから、君には後悔したまま止まってほしくはない。



「別に、後悔することが悪いというわけではないよ。後悔したことを、今度はしないように気を付けることができる。後悔することは、自身の学びに成長する。…………君が元の場所に戻れるよう、私たちも尽力する。だから、君もあきらめないでほしい」

『…………はい』



 私の言葉を聞いたサーヤ君は、先ほどまで真っ暗だった瞳に光が宿ったようだった。


 うんうん。

 君は、まだ子供なんだから周りの手を借りながら成長すればいいんだよ。



 本当ならば診察をしたいところだが、彼女は泣いたこともあり体力を消費しているはずだ。


 幸い、診察は魔法でもできる。

 彼女には、体力を回復させるためにもしばらくの間眠っていてもらおう。



「うん、いい返事だ。君は、少しお休み」

『でも、診察』

「君が寝ていても、魔法で終わらせておくから大丈夫だよ」



 私の言葉に慌てるサーヤ君を見て、思わずほっこりとしてしまい彼女の頭を撫でてしまった。


 うん、まじめだね。


 子供の内から、こんなに真面目じゃなくてもいいと思う。

 でも、やっぱり普段から生意気な騎士や薬を怖がる騎士たちを見ているからか、こういう風にまじめに受けようとする姿勢の子には癒される。



 彼女に【安眠魔法】をかけながらそう思う。


 【安眠魔法】は、精神魔法の一種で、体を暖かい膜で覆い精神を落ち着かせ眠りにいざなう魔法だ。

 疲れがたまっている者、精神的に不安定なものにかける魔法だ。


 どうやら、よほど疲れがたまっていたのかサーヤ君はスコンと眠ってしまった。



 まあ、疲れ以外にも彼女の場合は寝不足もあるんだろうけどね。








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