(197)切り裂きジャックの処遇②
~シヴァ目線~
「は? 私の息子?」
「ええ、貴方の息子の名前を聞きたいのですよ」
俺たちがいるのは、切り裂きジャックを捕らえている牢の前。
アルの質問に、切り裂きジャックは困惑した声音で聞き返した。
…………正直、ロルフ副団長の言葉は信じたくない気持ちでいっぱいだった。
『イアン』
おそらく、ジャックと同じように犯罪者の被害者となった見習い騎士兼技師の青年。
ジャックが異様に喧嘩腰…………ライバル視している青年。
俺の中では、そんな印象だった。
ジャックに理由を聞いても、『なんとなくムカつく』という答えが返ってきていたが…………まさか母親の血が影響してるのか?
ジャックが生まれた背景を考えれば、思わずそう思ってしまう。
もしイアンが切り裂きジャックの死んだはずの息子であれば、あの仲の悪い(というかジャックが一方的に嫌っている)二人は異母兄弟になるわけだが。
…………俺もそうだが、正直異母兄弟となると気まずい思いしかしたことがない。
しかもあの二人の場合は、片や両親に愛され両親を失った息子で、もう片や両親に拒絶され殺人犯の両親を持つ息子。
同じ父親でも、これだけ立場が違う。
というか、もう正反対だろう。
伝えたところで、衝突する未来しか見えない。
「…………そんなことをして、何の意味が?」
「あなたの妻子が死亡したと思える場所で、一人の少年を保護したのですよ。当時の年齢は20歳」
「!? イアンです!! 私の息子の名前は、イアンです!!」
切り裂きジャックの疑問にアルが答えれば、アルの言葉を途中で遮りそう叫んだ。
…………マジか。
俺は、思わず頭を抱えてしまった。
「…………ああ、やはり」
俺と同じく、キキョウ団長もまた頭を抱えている。
その気持ちは、非常にわかる。
死んだと思っていた息子は生きていた。
これだけ聞けば物語で言うハッピーエンドだが、現実はそう簡単にはいかない。
まず父親は母子を失ったことで暴走し、何の罪もない女性たちを死に追いやり遺族から恨みを買っている。
死んでいませんでした、さあ再会しましょう。
なんて、簡単に片付く話ではなくなってしまったんだ。
「…………生きているのですか? 息子は」
「生きているよ。彼の個有スキルが、彼の命を救ったんだ」
個有スキルってのは、『産まれた時から使える』か『途中でなんらかの原因で目覚める』かのどちらかだ。
ロルフ副団長の話では、イアンは死にかけた時に本能で自身の個有スキルを目覚めさせ、それを使って生き永らえた。
目覚めた原因は、十中八九母親の死及び自身の命の危機だろう。
【死亡偽装】
死にかけている時に一時的に心臓を止め、動かすための労力を治癒に集中させる個有スキル。
マイナス点としては、回復している間は動くことができず意識もないため話すことも不可能。
恐らくだが、イアンが生きているとわかるほど回復した時には切り裂きジャックが立ち去った後なんだろう。
…………なんなんだろうな。
イアンが助かったことは嬉しいが、それにしてもこんな結末とはな。
「ああ…………良かった」
「…………かといって、あんたの罪をないものにするわけにはいかない。そんな理由があろうと、あんたは何人もの罪もない国民を死に追いやった。その罪の代償は、負ってもらうぞ」
「ええ…………ええ…………良いのです。あの子が生きていると知れただけで」
安心しきった切り裂きジャックにそう言えば、奴はどこか泣きそうな心底安心したような声でそう言った。
…………どこか違えば、今の状況はなかったんだろうな。
次回予告:とうとう始まる、切り裂きジャックの処遇についての会議
シヴァ「犯罪者は許すわけにはいかない存在。…………んなことはわかっているんだがな」
キキョウ「何故だろうね。これほど、心が痛い話し合いはなかったよ」




