(191)愚昧②
~アルカード(アル)目線~
「…………どうしたの」
「ちょっと、何があったのよ」
…………タイミングが悪いですね。
セレスとノーヴァの登場に、思わずそう思ってしまいました。
それと同時に、目の前で抑えていた愚妹が私の背後を睨みます。
「…………まだいましたの、この泥棒ネコ」
「…………なんでいるのよ」
「私が聞きたいぐらいですよ」
なぜか愚妹は、セレスのことを団長狙いの女騎士と思っているようでした。
本当に、理解できない思考回路ですね。
この謎の思考回路は、いったいどこから来たのでしょう?
あの愚かな両親には傀儡の才能は有りそうですが、ここまで謎すぎる思考回路はなかったはずですが。
「聞いていますの、泥棒ネコ!! シヴァ様は、私の物ですわよ!!」
「団長は物ではないでしょ。だいたい騎士団本部の目の前で騒ぐだなんて、あなたどんな性根をしているのよ?」
「ふん! シヴァ様と同じ場所にいるからって、わたくしに勝ったと思わない事ですわ!!」
「…………あいかわらず、話を聞かないお嬢さんね」
ああ、本当に申し訳なくなりますね。
そもそも最近は大人しくしていたというのになぜまた来たんでしょう、この愚妹は。
それ以上に、何故いまだにセレスを女だと勘違いしているのでしょうか?
セレスは男だと何度も言っているのですがね…………。
はあ、これ以上愚妹をここにいさせるわけにはいきません。
ただでさえ、おかしな事件が起きて忙しいというのに。
「いい加減にしなさい、愚妹!!」
「もう…………アリシアですわ、お兄様」
「お前など、愚妹で十分です。それに、兄ではないと言っているでしょう!!」
「もう…………まだお母さまたちの言葉を気にしているの? 私は、お兄様のありのままの姿を愛するって言ったじゃない」
「お前に愛されるぐらいならば、キッチンに出る黒色の害虫に愛された方が何十倍もマシです」
正直、あの黒光りする害虫は生理的に受け付けませんが、目の前にいる愚妹と関わるぐらいならあの害虫とキスしろと言われた方が何倍もマシに感じますね。
あと、愚妹。
お前が泣き真似しても、引っかかるのは女に変な夢を抱く阿呆な男しか引っ掛かりませんよ。
団長が引っ掛かると思っているのなら、今すぐにそのムカつく顔を殴りますよ。
というか、殴っていいですかね団長。
「そんな…………お兄様ったら酷い」
「酷いのは、お前の頭の中身ですよ。団長やセレスに対しておかしなことを言ったり、団長やサーヤに対して迫ったり…………お前の頭の中は相変わらず理解できませんね」
正直、前に会った時は町中でしたからね。
もし団長やセレスにおかしな噂が流れてしまったら、どう責任取ってくれるのでしょうね。
まあ、きっとこの阿呆な愚妹はまったく気にしていないのでしょうね。
「お兄様…………こんな私は嫌いなの?」
「嫌い? 嫌悪どころか、憎しみすら沸きますよ。お前、あの家にいた時に私に何をしたのか覚えていないのです?」
「そんなこと…………」
まあ、この愚妹のおかげであの家から出るきっかけができたとも言えるので、その点だけは感謝しますね。
その後なんとか愚妹を追い返しましたが、愚妹の中ではどうやらセレスは『泥棒ネコ』から『悪女』に変更されたようですね。
「…………猫ですらなくなっていますね」
「アタシ、男なんだけれど。あとネコじゃなくて、ハイエナなんだけれど」
「…………猫は俺。泥棒はしないけど」
サーヤ・セレス・ノーヴァの言葉に、私はもう疲れ切ってしまいましたよ。
何故事件は進展しないのに、こんなことで疲れなければいけないのでしょう?
次回予告:サーヤは、アルからの言葉で女性に対して疑いを向ける




