(190)愚妹①
~アルカード(アル)目線~
会議が終わり、外の空気を吸いに言ったサーヤが戻ってきません。
心配になり見に行けば、サーヤの目の前にはあの女がいました。
「何をしているのです、愚妹!!」
私の妹、アリシアはおかしな存在でした。
豹の耳と尻尾。
精霊族よりも優れた身体能力。
先祖返りで獣人の血を濃く受け継いだ私は、周囲から酷く浮いていました。
そんな私に対して、変わらず接していたのがアリシアでした。
だからこそ、私はアリシアの存在を恐ろしく感じました。
アリシアの目は、前に見た恋仲の男を見る女の目をしていたからです。
ええ、そうですよ。
恐ろしい欲の宿った目でしたよ。
明らかに、姿形は違えど実の兄に対して見せる目はありませんでした。
それでも、この一線を引いた関係は続きました。
あの日までは。
何故か知らぬことで両親に叱られ、不思議に思っていれば私の耳がアリシアの声を拾いました。
「悪役のお兄様を必死で庇うヒロイン…………ああ、すてきだわ」
その後紡がれる言葉の数々で理解しました。
アリシア__愚妹は、私を『悪役』に引き立て自身をヒロインという存在にしようと考えていたのです。
だからこそ、今までのやっかみだと思っていた両親からの説教の原因も知ることができました。
ええ、理解できましたよ。
所詮、最初からこの家に私の居場所などなかったのだと。
私は、両親に絶縁状を叩きつけ家を出ました。
あの愚妹の道具になってやるつもりなどないので。
その後、私はまだ見習いだった団長と出会いました。
団長は、私を獣人として見てくれました。
嬉しかったのです。
私を腫れ物扱いせず、ただ一人の騎士として見てくれる。
あの家では、得ることができなかったものです。
だというのに__
「ああ、お兄様」
「私を兄と呼ばないでください。家とは絶縁したのですから」
目の前の女__愚妹は何度も私の前に現れた。
団長の姿を見てからは、団長に色目を使いました。
幸い、団長は愚妹の異常性に気づいてくれました。
さすが、団長ですね。
あの愚かな両親とは全く違います。
それにしてもここ最近は大人しくしていたというのに…………また来たのですね、この愚妹は。
「そんな…………酷いわ、お兄様」
相変わらず、被害者だと言いたげにこちらを見る目。
その中には、女の欲。
…………ああ、気持ち悪い。
とにかく、今すぐにサーヤから引きはがさなくてはいけませね。
この愚妹に、おかしな影響を貰ってはいけません。
「黙りなさい。サーヤに何をしたのです?」
「何もしていないわ。ただ、お母様と一緒に買い物に行きましょうと言っただけよ」
「お前の汚らわしい妄想に、サーヤを巻き込まないでください」
何がお母さまですか。
彼女の母は、理不尽な状況でも我が子であるサーヤを守った立派な存在。
お前のような、複数の男をとっかえひっかえしているような汚らわしい存在とは違うのですよ。
そう思った瞬間、愚妹の言葉に目の前が真っ赤になりましたよ。
もちろん、怒りで。
「そんな…………あの人は私の旦那様なのよ。なら、あの人の娘は私の娘でもあるのよ」
「お前の下らぬ妄想に、団長を巻き込まないでください!!」
「どうした、アル」
「団長!?」
背後から団長の声が聞こえました。
それと同時に愚妹も気づいたのでしょう。
ああ、申し訳ございません団長。
次回予告:アル目線の物語
彼は、彼女の異常性を再確認した




