(184)【神人の森】①
~紗彩目線~
「さて…………そちらの方はどうだ?」
シヴァさんの声が、緊迫した会議室の中に流れる。
…………どうして、こうなった。
私はそう思いながらも、必死で感じる視線を無視した。
あれから、あっという間に一週間が経った。
正直、死体が降って来るなんて言う恐怖体験を味わったおかげで、私は外に出るのが嫌になってしまった。
だって、あんなの直接見なくてもトラウマになるわ。
そして日々騎士たちからお土産にと貰った物を使って、便利グッズを生産した。
とりあえず、一番の出来だと思うのは犬耳の騎士から貰った『ピコピコハンマー』を使った『仲良しハンマー(アルさん命名)』である。
ちなみに名前の意味は、『可愛いハンマーで一撃で沈めて相手のプライドをへし折ってやれば調きょ……簡単に仲良しになれますよ』という意味らしい。
それ『仲良し』ではなく、『撲殺』では?
というか、『調教』って言いかけなかったかこの人。
そう思いながらも、私はそれを口に出さなかった。
社畜だった私は、空気を読めます。
とりあえず、『撲殺ハンマー』って呼んでおこう。
見た目は、何処にでもありそうなピコピコハンマーだけど。
そうして一週間が経った今日、なぜか私はシヴァさんの暴挙によって会議の強制的に出席させられている。
正直に言おう。
ロルフさんからの視線が物凄く刺さります。
私、帰っちゃダメですか?
「男の足取りならばついた。どうやら、複数の男たちによって【神人の森】に連れて行かれるところを見た者がいた」
「【神人の森】?」
心の中でそう思っていれば、ロルフさんの言葉に気になる言葉があった。
【神人の森】
その後、シヴァさんが説明してくれた。
【神人の森】というのは、竜人の国と精霊の国と獣人の国の真ん中にある大きな森らしい。
何故【神人の森】と言われているのかと言えば、その森には過去にやって来た【神人族】たちの墓があるらしく、遺体もその中で眠っているらしい。
…………遺体__墓があるということは、元の世界に戻らなかったということだろう。
彼らがここに残ることを望んだのか、それとも戻る方法がなかったのか。
「精霊族からは、【神がおわす神聖な森】とも言われているな」
「…………うわぁ」
そう考えこんでいると、シヴァさん言葉に思わずそんな声が出てしまった。
【神がおわす森】
なんか宗教にありそうな言葉だな。
ちょっと、私にはわかんない。
うちの家、無宗教だったし。
「神様って、本当にいるんですか?」
「いないよ」
「え?」
私の言葉に答えたのは、意外にもシヴァさんの正面に座っているキキョウさんだった。
…………キキョウさんか。
一週間前、私のことを『人の子』と呼んだ人。
すぐに聞こうと思ったけれど、さすがに急に慌てたりしたら余計に怪しまれそうな気がする。
…………正直、この人が何を考えているのか全くわからない。
私のことを『人の子』と呼んだのは、あの二人きりの空間だけだったし。
「実際にいるのは、森を管理しながら神人族の墓を守る【墓守】だけだよ。ただ、精霊族は【神人信仰】が主な宗教の種族でね。神人族の墓があるから特別な森という考えが一番だろうね」
「神人族の墓……」
キキョウさんの説明を聞きながらも、やっぱり気になるのは【神人の森】にあるという【神人族の墓】だ。
この世界に来た日本人であろう彼らは、いったいどんな真実を知ってどんな最期を迎えたんだ?
…………もしかしたら、元の世界に帰る方法のヒントがある可能性もあるし。
そう思っていると、キキョウさんが笑った。
「行ってみるかい?」
「…………いいえ、大丈夫です」
「そうかい」
キキョウさんの言葉に緊張しながらもそう返せば、笑ったキキョウさんは私から視線を外した。
…………いったい、さっきの言葉に何の意図があるんだろう?
そう思っていると、ロルフさんの口から意外な言葉が出た。
「…………だが、最近では『本当に神がいるのではないか?』なんていう噂もある。実際、森の中に入った者たちが何名か行方知れずになっているらしいからな。元から神がいると信じていた一部は、『神隠しだ!!』って言って震えている」
『神隠し』?
ロルフさんの言葉に、思わず首をかしげてしまう。
…………なんか、嫌な予感がする。
キキョウさんの話では森の中に神がいるわけではないらしいし、もし神隠しが現実に起こっているのならその神隠しは人為的な事件になるのではないだろうか?
「…………神がいないのであれば、その神隠しは何者かによる人為的なものになりますよ」
「正直に言えば、今回の被害者もその『神隠し』とやらの被害者ではないかとふんでいるんだよ。…………ただ、物的証拠はないけれどね」
私の言葉に、キキョウさんが頷いた。
…………これ、なんだかホラーとミステリーをごちゃまぜにしたような事件だな。
正直に言えば、非常に不気味だし怖い。
次回予告:シヴァ目線で語られる物語
シヴァ「ああ…………まあ仕方がないか」
シヴァが思った勘違いとは?
[7]~鬼退治は始まらない~
何故か、元の世界での『桃太郎』を話すことになった紗彩。
しかも、観客はなぜか竜人騎士団である。
紗彩「昔々、ある所にお爺さんとお婆さんがいました。お爺さんは山で木を狩り、お婆さんは川で洗濯をしていました」
キキョウ「一人で山に入るのは危険だよ、お爺さん」
イアン「もしかしたら、魔物を一撃で倒せるのかもしれない」
ラルフ「なんだと? ぜひとも、手合わせしたいものだ」
口々といろいろなことを言う三人に、『これ、話し進むのかな?』と不安に思う紗彩。
紗彩「ある日お婆さんが川で洗濯をしていると、どんぶらこと川から桃が流れてきました。お婆さんは驚きながらも、その桃をお爺さんと一緒に食べようと思い持ち帰りました」
ロルフ「なっ、待てご婦人! 不審物は、騎士団に届け出ねばいけないぞ!!」
イアン「衛生面的には大丈夫なのか?」
キキョウ「それ以前に、いったい何処から来たかもわからない物を口に入れるのはオススメしないよ」
紗彩の言葉に、口々にお婆さんを心配する三人。
紗彩「パッカーンっと桃を包丁で切ると、なんと元気な男の子が生まれました。お婆さんたちは、男の子に『桃太郎』という名前を付けました」
イアン「桃から赤ん坊? 生まれるのか?」
キキョウ「生まれないからね。それにしても赤ん坊が入っている桃を斬ったとなると、その赤ん坊はなぜ無事だったんだろうね? 普通真っ直ぐに斬るはずなのに」
ロルフ「そういう個有スキルなんだろう」
紗彩の言葉に、首をかしげる三人。
紗彩「数年後、元気に育った桃太郎は鬼退治に出かけました」
ロルフ「なんだと!? なぜ数年しか経っていないような赤子に鬼退治など!! 虐待ではないか!!」
キキョウ「その世界の騎士団はいったい何をしているんだろうね…………職務怠慢じゃないか」
イアン「桃太郎、別に行かなくてもいいんだ。俺が、鬼の首を落としに行く」
本気で鬼を斬り殺しに行こうとするイアンを止めるため、紗彩は桃太郎の続きを読むことができませんでした




