(182)病気
~イアン目線~
俺は、気づいた時は空っぽだった。
目の前には、真っ赤になった女の人。
気付いたら、俺の中には何も残ってはいなかった。
医者の話では、今の俺の状況を『記憶喪失』と呼ぶらしい。
らしいと言っても、正直に言えば実感がわかなかった。
真っ赤になっていた女の人は、俺の母親らしい。
俺の父親は、行方不明。
よくわからないうちに、俺は孤児院に入れられた。
俺を見つけてくれたのは、ロルフさんだった。
あれから何回も会いに来てくれた。
結果、俺は騎士団の見習い騎士兼技師として騎士団に入った。
理由は、なんとなく。
ただ、ロルフさんがいるからという理由だった。
キキョウさんは、不思議な人だった。
すごく優しいのに、犯罪者に対しての拷問が凄く苛烈だから。
よくわからないが、ロルフさん曰く『母親譲り』らしい。
うん、よくわからない。
獣人騎士団との合同鍛練で、ジャックという少年に出会った。
年が近いからなんとなく仲良くなれるかなと思ったけど、なんでか話しかけるたびに怒られた。
でも、理由がわからなかったから何回も声をかけに行った。
それから何年かたって、あの子に出会った。
とても綺麗な黒髪の子。
すごく小さいのに、どこか不思議な雰囲気のある子。
なんとなくだけど、少しキキョウさんに似た雰囲気がある。
でも、不思議なんだ。
その子を一目見た時から、心臓が凄く早いんだ。
頬が熱いんだ。
集中しなきゃいけないのに、気づいたらあの子のことを考えてる。
キキョウさんたちと一緒にお店を見ても、普段は特に面白いと思わない装飾品を見て『これ、あの子に似合いそう』って思ってる。
うん、やっぱり不思議だ。
心臓が早いのは、たぶん『不整脈』っていうやつなのかもしれない。
頬が熱いのは…………わからない。
俺は、いったいどうしたんだろう?
気づかないうちに疲れて、変な病気になったのかな?
獣人騎士団の本部に行ったらあの子がいて、すごく驚いた。
あの子の身長からして、こんな所にいるような年齢じゃないと思ったから。
そのことをロルフさんがシヴァ団長に聞けば、彼女は『獣人騎士団の専属技師』らしい。
ということは、俺と一緒か。
…………嬉しい。
…………嬉しい?
なんで、嬉しいと思うんだろう?
そう思いながらも、あの子とあいさつをしようと思って気が付いた。
あの子が凄く可愛くて、あの子の顔を見ているとなんだか落ち着かない。
それで顔を見ずに挨拶したら、ジャックに怒られた。
うん…………なんか嫌だな。
言っていることは正しいんだけど、それよりもあの子との距離が近いことの方が気になる。
なんでかわからない。
でも、何故か気に入らない。
…………俺、本当にどうしたんだろう?
「よくわからないな。あの赤子の個有スキルか?」
「…………君たち、二人ともなんだかんだ言ってそっくりだね」
不安になってロルフさん達に聞けば、ロルフさんは首をかしげているしキキョウさんは優しい笑顔を浮かべていた。
よくわからないけど、ロルフさんと似ているというのは嬉しいな。
ロルフさんと言えば、何故かキキョウさんのことをすごい顔で睨んでいた。
「…………爺さんは知っているのかよ」
「わかるよ。まあ…………そうだね。なんとかは実らないとも言う。我々が言うよりは、自分で気づいた方がいいだろう」
「…………意味が分からん」
キキョウさんのことを『爺さん』っていうのは、ロルフさんがリラックスしてるかららしい。
よくわかんないけど、自分で気づいた方が良いのかな?
…………でも、よくわからない。
「まあ、そうだね。考えてわからなければ、私に聞きのおいで」
「わかった」
よくわからないけど、聞いてばかりなのはよくないらしい。
だから、とりあえず自分で頑張ってみよう。
次回予告:ロルフ目線で語られる物語
彼は、自分の考えがわからなくなった




