(176)一触即発
~紗彩目線~
「…………一つ聞いていいか?」
「…………なんだ」
「何故、このような場に赤子を連れてきているんだ?」
その会話が出た瞬間、この場の空気が固まった気がした。
赤子……赤ん坊という意味だろう。
確かに事前に聞かされていたから言われるとは思ったけれど、やはり直接言われると固まってしまう。
そんな『ロルフ』さんの言葉に反論したのは、シヴァさんだった。
「赤子じゃない。こいつは、獣人騎士団の専属技師だ。その言葉、撤回してもらう」
「はあ? …………寝言を言う時間ではないぞ」
理解できないと言いたげな声音で、シヴァさんを睨む『ロルフ』さん。
まあ、確かに今は午後だから幼稚園児以外はお昼寝の時間ではないわね。
うん、そうだよね。
そう思うことにするわ。
だから、シヴァさんを明らかに変人を見るような目で見ている『ロルフ』さんなんて見ていませんよ。
「寝言など言っていない。俺が言っていることは、本当の事だからな。実力も技術もある」
「…………気でも狂ったか?」
「なんだと!?」
シヴァさんの言葉にそう返す『ロルフ』さんに返したのは、シヴァさんではなく他の人だった。
ピコピコと動く犬耳。
…………あの誘拐犯が侵入したときに、大量出血で一時危なかった犬耳の騎士だった。
その後ろには、あの時に負傷していた騎士たちが並んで立っている。
え、どういう状況?
「さっきから聞いていりゃあ、好き勝手に言いやがって。確かに、こいつはチビだし弱っちくも見えるがな。だがな。こいつはどんな状況でも冷静に対処するし、俺らじゃ浮かばねぇような発想を簡単に出すんだよ。そんじゃそこらの見習い騎士なんぞよりも何倍も役に立つんだぞ」
そう言ってヤのつく自由業顔負けなぐらいの恐ろしい顔で、『ロルフ』さんを睨む犬耳の騎士。
いや、私としてはそう言ってもらえると物凄く嬉しい。
正直に言えば、ときどき私って役に立ってるのかなって不安になる時もあったから。
やっぱり体力の差も体格の差もあるせいか、どうしても彼らのように直接現場で活躍するということができるわけでもないから。
「何より、俺達はこいつに命を救われた身だ。こいつを侮辱するなら、俺らが容赦しねぇよ」
ただ、この一触即発って感じの空気を出さないでほしかった。
別に私をどうこう言われても、特に気にすることはない。
糞上司からのパワハラ・セクハラを思い出せば、まだ彼の言葉はそこまで悪意がないから。
彼の声音からして、悪意というよりは疑問と言った感じだったし。
次回予告:一触即発な空気の中に現れる二人の竜人
なんとそこで驚くべき再会を果たす




