(173)商人街へ
~紗彩目線~
「…………」
「あれ、どうしたんですかジャック君?」
朝食を終え、竜人騎士団がやって来る午後まで何をしようと思い歩いていれば、眉間にこれでもかと皴を寄せているジャック君を発見した。
というか、ジャック君。
そんなにしわを寄せたら、取れなくなりそうなんだけど。
そう思いながらも声をかければ、帰ってきたのは合同鍛練についての問いだった。
どうやらジャック君が毛嫌いしている竜人が竜人騎士団の中にいるらしく、その竜人が高確率で来るかもしれない状況を不愉快に思っているらしい。
正直、ジャック君に嫌いなタイプがあった事の方が驚きだったんだけど。
ジャック君って、どっちかって言うとクラスのムードメーカーみたいなタイプかと思っていたし。
どこが嫌いなのかと聞けば、どこがというより存在自体がいる時点で嫌らしい。
あれか。
相性が合わないのを、本能的に感じ取っているのだろうか?
あと単純に、竜人騎士団の騎士から子供扱いされるのが嫌らしい。
…………私もそこを考えると胃が痛くなりそう。
成人しているのに、赤ん坊扱いされたら……。
「…………嫌なこと言われるかもしれないけど、俺達がいるからね」
真剣な表情を浮かべるジャック君に、私は頷いた。
いや、別に嫌味に関しては糞上司から毎日言われていたから、嫌み程度で割れるほどガラスのハートってわけじゃない。
というかそれぐらいの強度だったら、あの会社に入って一週間で鬱になるだろう。
まあ、なった人いたけど。
ブラック企業で強化されるのは、メンタルとスルー技術だな。
とは言っても、さすがにこのままジャック君を放置するわけにもいかないな。
いくら嫌いな相手とはいえ、一人がこんな顔をしている集団行動では周囲の空気も悪くなるかもしれないし。
「…………これから商人街に行きませんか?」
「え、今から?」
「来るのは午後らしいですし、沈んでいては鍛練の時に怪我をしてしまいますよ」
「…………そうだね」
私の言葉に、驚きの表情を浮かべるジャック君。
さすがに空気が悪くなることは言えないからそれらしい理由もつけくわえれば、真剣な表情で考えこんだ後頷いてくれた。
次回予告:久しぶりに会う商人
元気を取り戻したジャック
だが、サーヤはとある青年と出会う




