(172)合同鍛練
~紗彩目線~
「合同鍛練?」
「ああ、竜人騎士団とのな」
朝食のサラダを食べている時、右横で肉を食べているシヴァさんにそう言われた。
『竜人騎士団』
その名を聞くと思い出すのは、二週間前に捕まり死刑が決まったジャック君の父親のことだった。
「他の国同士の騎士団が一緒に鍛錬することって、あるんですね」
「まあな。違う価値観同士が一緒にいることで、お互いの悪い点などを改善するって目的だな。あとは、合同で調査するときに少しでも違和感をなくすようにでもあるな。今回もそうなんだがまああれだ…………何か言われるかもしれないが、普通に無視していい」
「え!?」
私の質問に答えてくれたシヴァさんの苦笑に、私は思わず驚きの声をあげてくれた。
『何か言われる』?
あれか?
嫌味とかか?
まあ確かに筋肉モリモリマッチョな騎士たちの中に一人だけ女が、しかも獣人ですらない存在がいたら嫌味も言いたくもなるか。
「…………私がここにいると、彼らにとっては不愉快ということでしょうか?」
「彼らも悪気があるわけではないのですよ。ただ、彼らの価値観からすれば最年長のジョゼフですら坊やに入りますからね」
私の言葉に、苦笑しながらも訂正するアルさん。
…………ジョゼフさんって、確か480歳だったよね?
そのジョゼフさんを坊やって言っちゃうとか、普通に驚きしかないんだけど。
「いや、まああそこの騎士団長の年齢から考えればその扱いもまあ理解できるが」
シヴァさんが、おいしくもなく不味くもない微妙な食べ物を食べたような表情を浮かべる。
そう言えば、アルさんが言っていたけど竜人族って長寿なんだっけ?
ということは、480歳を坊やと言えるぐらいの年齢の竜人がいるってことか?
「とりあえず、彼らにとっては下手したらサーヤは赤ん坊と同じようなものなのですよ。いくら能力が優秀でも、赤ん坊を騎士団で働かせるのは…………という感じです」
「ああ…………」
苦笑しながら言うアルさんの言葉に、私は思わず理解してしまった。
アルさんの例えはすごくわかりやすかった。
理解したくはなかったけど。
確かに糞上司が優秀だからって赤ん坊に書類を書かせているのを見たら、クビを覚悟で糞上司を殴り飛ばして警察に駆け込むわ。
赤ん坊…………赤ん坊か。
私は、成人しているんだけどな。
身長は平均以下だけど。
「えっと、それでは私はどうすれば」
「今回の件をうまく流せたとして、竜人騎士団は獣人騎士団と任務を共にするのが最も多い。…………というより、他の国の騎士団がまともに機能していないのが原因だが」
「正直に言えば、今回でうまく彼らに『サーヤは獣人騎士団の優秀な団員』と認めさせなければいけません」
「…………わお」
私の質問に、丁寧に答えてくれるシヴァさんとアルさん。
その答えに、私は思わず遠い目をしてしまった。
赤ん坊だと思われるのに、優秀さを認めさせるとか無理ゲーでは?
「戻ってきてください、サーヤ。とにかく、サーヤ。あなたなら大丈夫です。下手な騎士よりもしっかりしていて、どのような状況も冷静に対処できますから」
「…………頑張ります」
もうそろそろ、私は胃薬に手を出していいと思う。
なんで、次から次へと問題がやって来るのさ。
イベントは、ゲームと小説の中だけでいいです。
次回予告:不機嫌そうなジャックに出会う紗彩
そんな彼女は、久しぶりに商人街に向かう




