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(169)正義とは①

~紗彩目線~



「正義とは、なんだと思う」



 夕食を終え、部屋で本を読んでいる私にシヴァさんがそう聞いてきた。


 その言葉に、私はうまく反応できなかった。



「どうしたんですか、いきなり?」

「今回の切り裂きジャックの件を聞いて、ふと思った。俺達のやっている行為は、本当に正義なのだろうかと」



 私の問いに答えてくれるシヴァさん。


 正直、切り裂きジャックの背景は詳しくは聞かされていない。

 こう、本当にフワッと触る程度だ。


 まあ、なんとなくその理由はわかる。

 ジャック君の母親がやった行為は、下手したら女性が被害者になる方が多いからだろう。


 聞いた限りで正義のことについて不安に思うとすれば、切り裂きジャックが騎士団を頼らずに復讐を果たそうとしたことだろうか?



「…………正直、正義って人それぞれだと思います」

「人それぞれ?」

「犯罪を未然に防ぐのも正義。悪人を倒すのも正義。…………正直、正義ってこれと言って決まりなんてないと思うんですよね」



 私の言葉に、シヴァさんは目を見開いた。


 よくありがちな物語では、勇者が魔王を倒す話。

 でも勇者側の目線でしか語られないから、魔王側がどういう状況なのかもわからない。


 一方的な視点で、正義を決めるのは違う気がする。



「…………正義の反対ってなんだと思う?」

「正義の反対は悪というのが一般的ですかね」

「お前の考え的には?」

「正義の反対は、誰かの正義です」



 正義の反対は悪。

 でも、悪の方も一概に悪と決めつけることはできない。



「…………その場合、どうすればいいんだろうな」

「正直、それこそ勝者が正しくなるんじゃないでしょうか?」



 結局は、これだ。


 革命なんて、まさにそうだろう。

 レジスタンスが勝つまでは国の敵と言われているのに、勝利すれば一気に悪しき国に立ち向かった英雄として持ち上げられる。


 結局、勝者でいることがすべて。

 弱者はどんなに声をあげても、負け犬の遠吠え扱い。


 絶対的な正義なんて存在しないし、そもそも騎士団が正義というのは国の法律でそう定められているから。

 国の法律という後ろ盾がなければ、彼らはどういう扱いを受けるのだろうか。



「切り裂きジャックは、復讐を望んだ。ただその復讐方法に、竜人騎士団を頼るという方法が浮かばなかった。あの男にとって、竜人騎士団の正義は頼るべき正義ではなかった。…………じゃあ、俺はどうなんだろうと思ってな」



 そう言いながら、悲しげな笑顔を浮かべるシヴァさん。


 …………確かに今回の件は、どちらが悪いというものではない気がする。

 ただ、相性や運が悪かったのだろう。


 竜人の国は、殺人などを忌避する思想が強いらしい。


 長寿であると同時に命の儚さを理解しているからだろうと、シヴァさんは教えてくれた。


 命を殺すのは、一部の人のみが許される。

 同族殺しは最大の禁忌であり、汚らわしい行為でもある。

 だからこそ、日本で言う終身刑のような感じの刑罰が多いらしい。


 …………切り裂きジャックが、竜人ではなく獣人だったら何か変わっていたのかもしれない。





「…………たとえ否定されても、自分はこうだと決めた正義を持っていればいいと思います」

「正義を持つ」

「なんと言えばいいのでしょうか? こんな感じという強い気持ちを持っていれば、否定されても潰れなさそうです」



 正直に言えば、これだけは守りたいという想いを持てばいいと思う。

 騎士団という職業柄、目標なんて存在しないし。


 警察官を目指した友人も、『地元のお婆ちゃんたちに笑顔でいてほしいから』という理由で目指していたし。


 大それていない理由でもいいから、心の支えになるような想いを持っていればいいんじゃないかと私は思う。


 …………それを言えば、私に正義なんて存在しない。

 ただ元の世界に帰りたいという、獣人の国には全く関係ない目的。



 ある意味、私はここにいるべき人間ではないのかもしれない。






次回予告:シヴァ目線で語られる続き


____ただ彼は、自分と同じ苦しみを味わってほしくなかった

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