(168)正当な権利
~紗彩目線~
「あれ…………これって」
「…………俺の両親だな」
ジャック君の非常識すぎる母親に出会ってから、一週間が経った。
なんか面白いニュースあるかな?
そう思いながら新聞を確認すれば、表の大きな見出しには『狂人の終わりは』を書かれていた。
その見出しを横から見たのか、ジャック君が複雑そうな声音で言った。
ジャック君の両親…………あの非常識すぎる母親と切り裂きジャックのことか。
そう思いながら内容を読んでいけば、二人が死刑に処されることを知った。
「死刑?」
「ああ。切り裂きジャックの大量無差別殺人はもちろんのこと、あの女の自分勝手で悪質な監禁と殺人もな」
「…………死刑ってあるんですね」
「サーヤの所にはなかったの?」
私が呟くと、ちょうど夕食の皿を片付けていたシヴァさんが教えてくれた。
この世界にも死刑ってあるんだ。
そう思っていれば、ジャック君に聞かれた。
元の世界__日本にも、確か死刑はあったはず。
まあ賛成派と反対派がいたし、死刑を行っている国は年々少なくなっていたからもしかしたら日本でもいつか無くなるのかもしれないけど。
「…………あったと思います。賛成派と反対派がいましたけど」
「え、反対派いたの?」
私の言葉に、ジャック君が驚いた声で言った。
意外だと言いたげな声音に、思わず首をかしげてしまった。
加害者の人権問題とかで反対派はいたけど、この国にはいないのだろうか?
…………正直、加害者に人権なんていらないと思うけど。
被害者側の気持ちとか考えられていない気がするし。
特に今回の切り裂きジャックの裏側を聞いて、その思いが強くなってしまったような気がする。
「ここには、いないんですか?」
「いないと思うぞ。死刑は、被害者や被害者の遺族の正当な権利だからな」
「…………どういうことですか?」
私の問いに答えてくれたシヴァさんの言葉に、また首をかしげてしまった。
死刑が、被害者関係者の正当な権利?
確か、死刑というのは国が行うはずの物だったはず。
少なくとも、被害者関係者が関わることはできないはずだと思う。
確か被害者の関係者であれば、たとえ警察官でも事件に関わることはできないし。
それとも、この世界では違うのだろうか?
「この国の死刑は、別名【同害報復刑】とも言われている。例えば被害者が殺された場合、被害者の遺族が犯人を同じ方法で殺すというものだ」
「死刑には、遺族の恨みを晴らすためと復讐による第二の犯罪の防止のためという正当な理由がありますからね」
真剣な表情で、シヴァさんとアルさんが説明してくれる。
【同害報復刑】といえば、ハンムラビ法典に記載されているという【タリオの法】のことだったはず。
簡単に言えば、『目には目を歯には歯を』を体現したような刑罰だ。
たしかハンムラビ法典の趣旨的には、犯罪に対して厳罰を加えることを主目的にしてはいなかったらしいけど。
確かに、この世界でも聞いた限りだと『厳罰』というよりは『正法な復讐』もしくは『復讐による犯罪の防止』を目的にしているようだし。
「でも、多数の遺族が立候補した場合はどうするんですか?」
「それでも可能だ。禁術と言われた魔法の使用になるが、【死者蘇生】というものがあるからな」
私の質問に答えてくれるシヴァさん。
…………禁術までやるのか。
でも、被害者側からすれば救われる話ではある。
少なくとも、切り裂きジャックもそうだったらこんな凶行に及ばなかった気がする。
確かに、日本ではできない死刑方法だな。
というか、死者蘇生ができるんなら被害者を蘇生させた方がいいんじゃないの?
「…………被害者を蘇生させた方がいいのでは?」
「【死者蘇生】には、マイナス点があってな。生き返らせたとしても本人の脳一部を除いてはすでに死んでいるから、生前と同じ状態には戻らない。残っている部分は、痛覚など生きる部分において必要な部分だな」
「痛覚は、生きているうえで体に危険信号を送る役割を持っていますからね」
「まあ蘇生は言っているが、実際は痛覚だけが残っている動く人形のような物だな」
私の質問に、困ったような表情を浮かべながらも答えてくれるシヴァさんとアルさん。
痛覚だけが残っている動く人形…………痛覚があるゾンビみたいな感じか?
そう思っていれば、ジャック君が嫌そうな表情を浮かべた。
「でもさ、魔族の国とかからは『野蛮だ』って言う反対意見はあるけどね。誰が野蛮だよって思う。引きこもってパーティーばっかりやってるくせに」
「あいつらは、いまだに貴族社会だからな。好き勝手して、いつ復讐されるか恐ろしいだけの腰抜け共の戯言だ」
ジャック君の言葉に、苛立ちの声音で言うシヴァさん。
そういえば、シヴァさんは吸血鬼と獣人のハーフだったっけ?
吸血鬼は魔族だったから…………ああ、シヴァさんとシヴァさんの母さんに対して酷いいじめをした奴らがいるのか。
会ったら、ぜひとも『ガムテで体毛全滅の刑』に処してやりたいわ。
私、いじめ嫌いなのよね。
「精霊の国や竜人の国では言われないんですか?」
「竜人の国は、基本騎士団が【勧善懲悪】を目標に掲げているぐらいだからな。まず殺人を犯した時点で家畜以下の扱いを受けるから、正直軽犯罪はともかく殺人のような重い犯罪は起こらないんだよな。…………特に、団長があの男だしな」
私の言葉に、どこか遠い目をしながらも言うシヴァさん。
犯罪者が家畜以下…………日本では絶対にありえないな。
まあ、殺人の抑止力になっているんならいいんだけど。
「まあ、子供の犯罪者に対しては寛容ですよ。何しろ、子供の犯罪者はほとんどが周囲に問題ありですからね。義賊というのもいますけど、だいたいが見つけ次第騎士団直属の孤児院で保護ですし」
シヴァさんに続くように、苦笑しながらアルさんが説明してくれる。
義賊か。
小説の世界では時々見かける団体だけど、この世界でもいるのか。
あ、でも子供の犯罪者に対しては寛容なんだ。
…………まあ親に虐待されていて、命令されて店から物を取るっていう事件なら日本でもあったらしいからな。
確かに、周囲に問題ありだな。
「精霊の国は…………正直、宗教国家の一面も強いからな」
「悪いことをすれば、神より罰が下るっていう感じですね。まあ神人信仰というものがあるので、黒髪に対して異様に執着しているという問題点もありますが。ですから、騎士団もありませんよ」
疲れたように言うシヴァさんに、笑みを深くするアルさん。
黒髪…………ああ、そうか。
日本人って、遺伝子関係以外ではほとんど地毛が黒髪だからな。
というか、騎士団がないって色々と大丈夫なの?
「まあ大多数はまともですよ。一部が生ごみ以下のクソですけど」
…………アルさん、なんで一気に毒舌になったんだろう。
次回予告:夜、寝る前にとある話材について話すシヴァと紗彩
この問いに答えを出せるのだろうか?




