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(15)保護した子供

~ジョゼフ目線~


「何をしているのかな?」



 苛立ちを抑え、言い合いをしている彼らにそう話しかければ彼らが固まって此方を見る。


 まったく、言い合いをするのは良いがもう少し周りを見なさいと何度も言っているんだがな。

 とりあえず、君たちは後でお説教だ。


 呆れと苛立ちの意味を込めて彼らの顔を順にみていれば、シヴァ君の腕の中で震えている子供と目が合う。

 ああ、怯えさせてしまったね。

 とりあえず、君には怒ってはいないんだよ?


 そう思いながら微笑めば、子供からは微妙な表情を浮かべられた。

 うん、どうしたんだろうね。

 まあ、急に話しかけたら怖がられるだろう。

 まずは、シヴァ君に話しかけようか。



「シヴァ君、その子が件の子供かい?」



 シヴァ君に聞きながら近くに行けば、子供の小ささに思わず驚いてしまう。

 シヴァ君が抱いてると、余計に小さく見えてしまうのかもしれないけど。


 それに、痩せすぎていないかい?

 獣人族も他の種族の子供も、もう少ししっかりした体格なはずだが。



「ああ、そうだ。耳の形から、もしかしたらこの大陸にいるどの種族にも当てはまらないかもしれない」

「…………なるほどね」



 シヴァ君の話を聞きながら、彼に抱き上げられている子供の顔を覗き込む。

 子供は不安そうな表情を浮かべている。


 確かに、子供の耳は他の種族に似ていなくもないが、他の種族のようにとがってはいない。

 ふむ、シヴァ君の言う通り彼女はこの大陸には存在していない種族なのだろうか?



「やあ、こんにちは」

『え? 通じてる?』



 私が話しかければ、子供はとても驚いた表情を浮かべた。

 おそらく、言葉が通じたことに驚いたのだろう。


 まあ、アル君の話では言葉が通じなかったみたいだからね。

 【古代語】が通じたらしいが、獣人騎士団の中で【古代語】を話せるのは私とシヴァ君ぐらいだ。

 とはいっても、私があいている時間にシヴァ君に教えたから、シヴァ君は完全に【古代語】をマスターしているかと言えばそうでもないんだけどね。

 


「うん。通じるよ。私は、ジョゼフ。医師…………病気やけがを治す仕事をしているのだが、ちょっとおじさんとお話ししていいかな?」

『え、あ、はい?』



 私の言葉に、子供はまだ混乱しているのか返ってきたのは疑問形の答えだった。


 この問いかけは、少しまずかったかもしれない。

 私が騎士団専属の医師ではなければ、明らかに幼児性愛者と間違われてしまう。


 まあ、まずは子供に味方であるとわかってもらおう。

 そうでなければ、この子供の精神も安定せず緊張してばかりで無意識にストレスをため込んでしまいかねない。



『えと、紗彩です。こんにちは』

「そうか、サーヤというんだね。可愛い名前だね。それに、ちゃんと挨拶を返せていい子だね」



 今のところ、子供らしくない部分は敬語を使っているところと目元の隈だな。

 隈は寝不足だろうが、敬語は…………周りから使うように強要されていたのか?


 まあ、とにかく今は本題を話そう。



「さて、サーヤ君。私は、これから君のことを診察しなければいけないんだ」

『え? 診察?』

「ああ。病気にかかっていないか、怪我をしていないかを調べるんだ。君は先ほどまで森にいたと聞く。心配だからね。君には、診察を受けてほしいんだ」

『…………』



 この子供__サーヤ君は、たしか【帰らずの森】で一人でいるところをシヴァ君とアル君に保護された。


 あの森には、魔物だけでなく毒を持った動植物や虫もいる。

 それに毒を持った虫の中には目では見つけにくい虫もいるし、植物だって一見毒を持っているとはわからない見た目の植物もある。


 もし彼女が、気づかずに接触しているとなればとても危険だ。子供は、大人と違い免疫も少ない分重症化しやすい。


 それに、このサーヤ君の今の健康状態も気になる。

 目元にあんな濃い隈がある時点で寝不足なのは予想できるが、もしかしたら表には出ていないだけで何か異常があるかもしれない。



 私がそう言えば、サーヤ君は一瞬固まった後何かを考えている。

 その表情は、どこか不安そうだった。


 …………診察という言葉に、なにか不安を抱いてしまうような体験をしたのだろうか?



「もちろん、痛いことは何もしない。彼らが怖いと言うのなら医務室…………診察をする所にも入れない。だから、診察を受けてほしい。私は、君に苦しんでほしくないんだ」



 基本、診察は魔法やいくつかの道具を用いて行うものだ。

 注射で採血し、採取した血を魔法を使って調べる。


 それだけで、かなりのことがわかってくる。


 まあ注射を嫌がる者は何処にでもいるが、まさかこの騎士団の騎士たちも嫌がり逃げ出すとは思わなかったが。

 まったく、騎士ならばドンっと構えて注射ぐらい耐えなさい。

 シヴァ君たちも、尻尾は非常に正直だけど表面上では無様な姿をさらさないように耐えているというのに。

 …………まあ、尻尾が正直なのは仕方ないけどね。

 そういう習性だし。



『…………わかりました』



 思わずこの前に合った健康診断の時のシヴァ君たちの姿に心の中で笑いそうになった時、考え込んでいたサーヤ君がそう答えた。



「……! そうかい。ありがとう」



 過去のことを思い出していて驚いたからか変に間を開けてしまったけど、特に変に思われなくて良かった。



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