(166)同類①
~シヴァ目線~
「…………あんたはサーヤと出会った時、あいつに何をしようとした?」
「は?」
確かに、こいつの背景を考えれば他人事ではないと思った。
だが、それと同時にこいつがいたことでサーヤとジャックは命を狙われた。
「…………あいつは、あんたにとっては憎い女に見えたのかもしれない。だがあいつは、殺されたあんたの息子と同じぐらいの年齢だったんだぞ」
「!?」
サーヤは、年齢に見合わない知識と冷静さを兼ねそろえている。
だから、幼い子供に見えても少し観察すれば成人した大人と同じぐらいの冷静さを持っていることに気づく。
この男は馬鹿じゃない。
その部分に気づいたからこそ、サーヤを子供ではなく攻撃対象の女として見たんだろうが…………。
「それだけではありませんよ。あなたが殺し、傷つけた女性の中にはいろいろな方がいたのですよ。子を持つ母親。新婚だった女性。病弱だったのを、やっと回復できた女性。不器用ながらも、やっと望んだ男性と結ばれた女性」
俺と同じことを考えたのか、笑顔を浮かべたアルがそう言う。
__まあ笑顔なのは口元だけで、目は完全に奴を軽蔑し憎悪しているような目だったが。
だが、アルが言ったように被害者は幸せ絶頂だったものが多かった。
「あなたにとっては、妻と子を理不尽に奪われたかもしれません。ですが、行っていることはあなたもあの狂った女性と同じことをしていますよ」
「私が…………あの女と同じ…………?」
アルの言葉に、切り裂きジャックが絶望したような声でポツリと呟く。
復讐心に狂いすぎて気付いていなかったのか?
だが、そんな背景を聞いたとして被害者はどういうだろうか?
そう思っていると、アルがとある機械を取り出した。
――――『娘を返して』――――
泣きわめく幼い孫をあやしながら、心の中では同じように嘆く祖母の恨む声
――――『妻を返せ……返してくれ』――――
新婚で幸せ絶頂だった時にやって来た絶望に、まるで神に祈るように嘆く若い男の声
――――『どうして、あの子を殺したの? やっと、あの子の願いがかなったのに』――――
病弱で歩くことすらままならなくやっと回復した娘を失い、世の理不尽を恨む母親の声
――――『なんで俺は喧嘩したんだ……』――――
過去の自分の行動を悔い、恋人に対して謝罪する青年の声
その機械には、被害者の関係者の恨み言が記録されていた。
「…………これを聞いて、まだ自分は被害者だと思いますか?」
「あ……ああ……」
アルの質問に、言葉がままならない切り裂きジャック。
ガリガリと、自身の白い仮面をひっかいている。
…………不味いな。
監視の騎士たちに目配せすれば、頷いて牢の鍵を探す。
「あなたは、確かに被害者だった。でも無関係な女性とあの狂った女性を一緒だと思い襲った時点で、あなたはあの女と同じ立場である『理不尽な想いで大切な存在を奪った加害者』に成り下がったのですよ」
「…………死者の国にいるであろう、あなたの妻子はどう思うでしょうね? 危険だとわかっていても別れなかった、愛おしい夫と父親の堕ちた姿に。…………自分たちの死を理由に、多くの罪なき女性を襲う夫と父親の姿に」
アルが冷たい声で言った瞬間だった。
「あああああああああああああああ!!!!」
「おい、やめろ!!」
突然大きな声で、狂ったように仮面を外そうと暴れる切り裂きジャック。
慌てて牢を開けさせ、切り裂きジャックを抑える。
強い力で暴れる切り裂きジャックを、なんとかより強い鎖でがんじがらめにして封じる。
…………この仮面にかかっている魔法は、火炎魔法だ。
レオン様いわく、裏社会で出回っている『自害用』の道具らしい。
予想だが、女を殺す時に色仕掛けなりして巻き込んで殺すつもりだったのだろう。
だが、自害させるわけにはいかない。
この男に殺され、傷つけられた被害者の遺族のためにも。
「ああ…………すまないすまない!! 私はあの女と同類に成り下がった!! お前たちの死を理由に、何の罪もない女性をお前たちのように理不尽に奪った!!」
そう言い泣き叫ぶ切り裂きジャックを、アルはとても冷たい目で見下ろしていた。
次回予告:アル目線で語られる物語
切り裂きジャックを通して、アルはとある思いを抱いた




