(164)遭遇②
~セレス目線~
いつも通りの見回りだった。
切り裂きジャックが捕まったことで、少しずつ町の中も活気づいてきた。
それは嬉しかったんだけど…………。
まさか、ジャックの母親がジャックとサーヤに絡んでいるとは思わなかったわ。
近隣住民から直接『危険なことを軽々しく言う女が、男の子と小さな女の子に絡んでいる』と報告を受けて来てみれば、その男の子と女の子というのはうちの騎士団の子だった。
急いで取り押さえたけど、二人には怪我はなさそうね。
二人の周りに大人が人だかりになっているのは、きっとすぐにでも取り押さえることができるようにでしょうけど。
取り押さえられたことに安心したのか、女の非常識さを話したり、ジャックに対して憐みの言葉を言っている。
「セレスさん」
「なぁに、サーヤ?」
「これ、どうぞ」
サーヤに話しかけられ、彼女の方を見れば黒い機械を差し出してきた。
その機械には、見覚えがあった。
確か、ジョゼフがサーヤに渡したボイスレコーダーだったはず。
でも、どうして今これを?
そう思いながらも、機械の中にある音を聞けばそこには女の非常識すぎる言葉と無意識な自白の記録があった。
…………これ、この子が記録したの?
「あの女性の発言を録音した機械です。証言してくれる人もいるでしょうけど、一応自白のような物なので」
無表情なサーヤの言葉に、今の状況の合点がいった。
いくら大きな声で言っていたとしても、周りの大人たちがあそこまであの女とジャックの間柄を詳しく知ることはできない。
騎士を呼んでもらうための時間稼ぎと共に、女が過去にやらかした行為をこの場にいる獣人全員に周知させたんだ。
獣人は、犯罪者の情報は徹底的に周囲に流す。
それが、危険から仲間を遠ざける結果に繋がるから。
サーヤはそれを利用して、あの女が再び社会に出ても周囲に人がいないようにしたのね。
それと同時に、ジャックもまた女の被害者であることを言外に伝えた。
ジャックとあの女は、性別の違い以外はそっくりだもの。
ジャックに対して、マイナスが来ないとも限らない。
だからこそジャックを『あの女の息子』ではなく、『自分勝手な母親に捨てられ苦労してきた少年』に仕立て上げた。
それと同時に、切り裂きジャックもまたあの女の被害者であることを周知させる。
この事で、切り裂きジャックの事件の裏側も周知させた。
子供だけでなく、家族を大切にするという点では獣人も同じ。
だからこそこの時点で女は、『ジャックを虐げた身勝手な母親』と『切り裂きジャックの事件の元凶』という二つの烙印が押された。
成人もしていない少女の手で。
「…………サーヤ、貴方容赦がないのね」
「何を言っているんです、セレスさん。精神的に殺せるほどの話術なんてありませんし、物理的に殺したら犯罪者じゃないですか」
アタシがそう言えば、サーヤは無表情ながらも瞳は仄暗い怒りで揺れていた。
…………この子も、ジャックの件であの女に対して怒りを抱いていたのね。
…………まあ、あの女が今後どうなるかはわからないけど。
ただ、これだけは言える。
あの女は、たとえ身柄を解放されたとしてもこの国で生きていくことはできない。
だって、この国でも切り裂きジャックの被害者はかなりいるもの。
その事件の犯人にこんな凶行をさせた元凶なんて、周囲の獣人たちが許すはずないもの。
あの子の恐ろしいところは、もう一つあるわね。
この国では、基本的に『相手の情報を周知させるときは、絶対に嘘を入れてはいけない』という法律がある。
あの子の行為はあまり褒められた行為ではないけど、法律違反を起こしてはいない。
だって、あの子はただただ質問しただけ。
結局のところ、あの女はサーヤがうまくやったことで自滅しただけ。
まあ、その代償は『社会的な死』という重い物になったけれど。
…………でも、仕方がないわよね?
次回予告:切り裂きジャックと話をするシヴァとアル
そこで、切り裂きジャックの凶行の全貌を知る




