(163)遭遇①
~紗彩目線~
「やっと見つけた!!」
「!? サーヤ!!」
女性のそんな叫び声と共に、ジャック君に呼ばれ後ろに引っ張られた。
扇子を買った帰り、少し休憩しようと思って近くの広場まで行った。
そこの出店でお菓子を買って休んで帰ろうと思ったんだけど……。
どうやら、私とジャック君の不運は切り裂きジャックの件が終わっても終わっていなかったようだった。
まるで般若のように目を吊り上げ、こちら__ジャック君のことを睨んでいる。
そして睨まれているジャック君はというと、私を庇うため私の目の前に立っている。
「この糞ガキが…………お前だろ!! あの人を騎士団に売りやがったのは!!」
「…………ははっ、やっぱり来ると思ったよ__母さん」
ジャック君を睨みながらそう叫ぶ女性に、ジャック君は落ち着いた声音でそう言った。
ジャック君の母親。
ということは、切り裂きジャックが言っていた『あの子』を奪った張本人。
そう考えた瞬間、私はズボンのポケットに入れておいたボイスレコーダーを気付かれないように起動した。
正直、どんな発言が出るかもわからないし、彼女が犯罪者なら何とか自白もどきの発言が出るかもしれない。
事件が何年前に起こったのかもわからないけど、一応証拠になりそうなら提出しよう。
そう思っていると、ジャック君の母親(仮)が再び叫ぶ。
「母さん? アタシをそんな風に呼ぶんじゃないよ!! 誰が、お前みたいな役立たずの子供の母親なんかになるもんか!!」
「安心してよ。俺の家族は騎士団の皆だ。あんたじゃないし」
叫ぶ母親(仮)に対して、冷静にそう返すジャック君。
とりあえず、言いたいこと。
いい年した大人が、公共の場で騒ぐな。
子供じゃないんだから。
…………ジャック君の方が、よっぽど大人に見えますわ。
「貴方が…………切り裂きジャックから大切な人を奪い、彼を狂わせた元凶なのですか?」
「狂わせた? あの女が悪いのさ!! あの人は、アタシの物だよ!!」
「へぇ…………まあある意味お似合いですよ、お二人とも」
とりあえず証拠になりそうな言葉を引き出そうと話しかければ、今度は私の方をギロリと睨みながら言う。
…………とりあえず、ちょっと落ち着かせるか。
そう思いながら、機嫌をよくさせるため言う。
まあ、本音だけど。
だって二人とも、ものすごく理不尽なことでジャック君に対して酷いことを言ってたし。
「へぇ、あんた見る目あるね」
私の言葉を聞いた母親(仮)が嬉しそうにする。
本音を言えば、褒められても全く嬉しくない。
ジャック君が私のことを心配そうに見ているけど、ポケットの中を見せれば安心したように母親(仮)の方を向いた。
よし、息子(仮)公認になったわ。
そう思っていると、周囲に人が集まり始めている。
…………ついでに、社会的に殺してやろうか?
「それじゃあ、あなたは切り裂きジャックと結婚するんですか?」
「当り前さ!! そのためにそこのガキを産んだんだし、あの邪魔な女と女のガキを殺したんだから!!」
母親(仮)がそう叫んだ瞬間、周囲がざわついた。
…………とりあえず思ったこと。
この人、クソだな。
よくこんな大人から、ジャック君のようないい子が生まれたよ。
「なぜ? 口説くぐらいはしたんですか?」
「口説く~? アタシはね、あの人が欲しいのさ。なのに、あの女ときたらあの人を奪いやがって……」
「つまり、奪われた逆恨みですか。恋人同士だったんですか?」
「いいや。でも、あの人はアタシの運命の人さ。例え、他に女がいようとガキがいようと関係ない。あの人とアタシは運命なのさ。それで愛し合うためにアタシの家に連れて行ったのに逃げやがるし……」
…………恋人関係でもなかった。
それに子供ということは、既婚者だったのか。
正直、夫婦でも恋人同士でもなかったのなら、奪ったことにはならないと思うんだけど。
「せっかくあの人との子供も作れたのに、産まれたのはあの人には全く似ていないそこのガキさ!!」
「それは、仕方がないのでは? 子供はどちらに似るなど、自分で決めることはできませんし」
「そんなのは、関係ないね。ガキは、アタシの道具。あの人をアタシにつなぎとめるために道具に過ぎないんだから」
子供は道具。
…………こういうのを毒親というのだろうか?
そう思っていると、聞き覚えのあることが聞こえてきた。
「捨てたのに、ですか? 父親に顔が似ていないという理由だけで?」
「はーい、そこまで」
「は? …………て、触んなよ!!」
私がそう言った瞬間、セレスさんの声が聞こえ、目の前にいた母親(仮)は軍服を着た複数の男性によって取り押さえられた。
「悪いけど、本部に来てもらうわよ」
「はあ!! なんで、私が行かなきゃいけないのよ!!」
「なんでって…………あなた、いろいろと問題発言していたわよね?」
セレスさんの言葉に反論する母親(仮)に、驚いた表情を浮かべるセレスさん。
明らかに、自分は無実だと言いたげな表情の母親(仮)。
…………セレスさん、その人に一般常識はきかないと思いますよ~。
「ふざけんじゃないわよ!! ちょっと、糞ガキ!! ボケッとしてないで、アタシを助けなさいよ!!」
「なんで?」
「は?」
母親(仮)が叫んだ瞬間、ジャック君は首をかしげながらそう言った。
というか、まず助けてもらう態度ですらないし。
「なんで、助けなきゃいけないわけ? 俺は役立たずなんでしょ? なら役立たずだから、あんたの役には立たないように俺は行動するよ。だって、俺は役立たずなんでしょ?」
「ふざけんな!! この糞ガキ」
ジャック君が淡々と言った言葉に、激昂する母親(仮)。
…………ざまぁ!!
自分が役立たずって言ったくせに、なんで助けてもらえると思ってるんだろ?
そして、ジャック君に対して言葉にもなっていない言葉を喚く母親(仮)、そしてそんな彼女の目の前にかがむセレスさん。
「はいはい…………これ以上クソみたいな言葉吐くんなら、物理的に黙らせるぞ」
「ひ」
セレスさんがいつもよりも何倍も低い声でそう言うと、母親(仮)はブクブクと泡を吹いて気を失ってしまった。
次回予告:セレスから見た状況
セレス「…………サーヤって意外に怖いのね」




