(162)『桜』
~紗彩目線~
「こっちこっち」
ゴミ捨てを終え、お金を持って歩く私とジャック君。
今日は休日なせいか、結構人がたくさん歩いている。
しばらく歩くと、ジャックさんは大通りから少し外れた道に入った。
奥の方を見れば、派手ではないが和風な外装の店が一軒だけ建っている。
「おじさ~ん」
「お、ジャックか。今日は、どうした?」
「この子の物を買いに来たんだ」
「お~、ゆっくり見て行けよ」
ガチャっとドアを開けたジャック君が声をかければ、陽気な男性の声が聞こえてきた。
しばらくすれば、着流しを着た中年の男性がやって来た。
腰には虎柄の尻尾、頭には丸い耳がついている。
色合いや形状からして、虎の獣人だろう。
そう思いながら店の中を見回せば、たくさんの扇子が綺麗に並べられている。
「扇子? …………もしかして」
「うん、俺がオススメなのは扇子。これなら、武器だと思う人ってほとんどいないでしょ?」
私の言葉に、ジャック君が頷きながら説明してくれた。
扇子は神人族が伝えた文化の一つで、主にダンスなどで用いられるらしい。
ああ…………ここでも出てくるのね、神人族。
でもここまで日本文化があるということは、素晴らしいからこそ残ったということなのだろうか?
それにしても、ダンスで扇子…………?
まあ日本の扇子でも、日本舞踊や能などで使用されている『舞扇子』なんて言うのもあるから、ダンスで使うのもアリと言えばアリなのかもしれない。
というか、何故扇子?
私は、武器に見えない武器と言ったはずなのに。
「ですが、何故扇子を?」
「う~ん、単純にサーヤの戦い方って道具頼りでしょ? だから、これならいくつか魔法を入れればいいし。それに、これを持って戦うサーヤってなんだかダンサーみたいで綺麗だし!」
私の問いに、どこか恥ずかしげに笑うジャック君。
まあ確かに扇子=ダンサーの持ち物という概念があるのなら、武器だとは思われないだろう。
というか、この人今なんて言った?
「綺麗…………ですか?」
「うん! サーヤの黒髪ってすごく綺麗なんだけど、フリフリの派手な衣装とかよりシンプルな物とか、このワガラ?っていう物の方が似合うと思うんだ」
「それは……嬉しいですね」
笑顔で言うジャック君に、顔がほころぶ。
私としては日本人だし、やっぱり故郷の物の方が似合うと言われれば嬉しい。
それと同時に異世界でも故郷の物に触れるという事実に、私は思わず過去に来た日本人の二人に心の中で感謝した。
「あの…………どうせなら、ジャック君が選んでくれませんか?」
「ええ!? いいの?」
「お願いします」
感謝したけれど、私自身のセンスが地味に心配だ。
いや、和柄に当たり外れなんてないんだろうけどそれでも心配だ。
そう思いながらジャック君にそう言えば、パァッと顔を明るくさせ嬉しそうに言った。
その後、ジャック君は真剣な表情で周囲を見て回り始めた。
「う~ん…………じゃあ、これとかは?」
しばらくして、ジャック君が持ってきたのは一枚の扇子。
青と薄い桃色と少しの紫色が混じった背景に、咲き乱れる薄い桃色の桜と、舞うように描かれている四頭の黄色の蝶。
…………夜桜だろうか?
ふと、私はそう思った。
「サーヤって肌白いし、どっちかって言うとピンクとか赤みたいな温かい色よりも、青とか紫みたいな涼しい色の方が似合うと思ったんだ…………どうかな?」
「これにします」
「え、他のも見なくていいの?」
「これがいいです」
ジャック君の説明を聞き心が温かくなりながらもそう言えば、ジャック君が驚いた表情を浮かべながら聞かれる。
私としては、これがいい。
ジャック君が選んだって言うのもあるけど、彼が似合うと言ってくれた扇子の中に『桜』があるのが嬉しかった。
『桜』
日本では知らない人なんていないと思うほど、人気で綺麗な花。
糞みたいな会社でも、見るたびに癒されていた花。
…………柄でも、見ているだけで心が安らぐんだ。
次回予告:扇子を買い終わり、帰路につく二人
だが、そんな二人にとある人物が話しかける
紗彩「日本って、昔は復讐に対して寛容だったんですよ?」(黒笑)




