(161)ゴミ出し
~紗彩目線~
あれから一週間が経ち、無事に健康診断週間を乗り越えた。
それと同時に、私の両腕は筋肉痛に陥った。
…………まさか、騎士全員の頭を撫でることになるとは思わなかったんだもん。
ちなみに、この事でジョゼフさんからお手伝いの報酬と塗り薬を貰った。
まあ、治癒系の魔法って麻酔と同じでよほど危険な状況じゃない限り使えないらしいからしょうがないんだけど。
そう思いながら、ゴミを捨てるため騎士団内にあるゴミ捨て場に行く。
この世界でも、元の世界と同じく曜日によって捨てるごみの種類が決まっているらしい。
…………楽でいいわ。
生ゴミとかは、忘れたら悲惨だけど。
特に夏。
そう思っていると、どうやらゴミ捨て場についたようだ。
ゴミを袋に入れて捨てていると、ズルズルという音が響く。
後ろを振り向けば、大きな黒い袋を引きずっているジャック君を見つけた。
「あれ、ジャック君?」
「あ、サーヤ」
私の声に気づいたのか、ジャック君が驚いた表情を浮かべながら袋を引きずって近づいてくる。
そのまま、静かに袋を他のゴミが積まれているところに置く。
「…………ゴミとかは捨ててたんだけど、どうしても使えなくなった物とかは捨てれなかったんだ。なんだか、物が母親に捨てられた時の自分に見えて」
「…………」
「おかしいとは思うんだろうけど、どうしても捨てようと思うと同時にそう見えてしまったんだ」
私が見ていれば、ジャック君がそうポツリと切り出した。
そのまま、ポツリポツリと話し始める。
思い出の物もそうでない物も、今までずっと捨てることができなかった。で
も、今は捨てられるようになったらしい。
…………もしかしたら、あの切り裂きジャックの事件が彼に何か影響を与えたのかもしれない。
「…………あの時はごめんね」
「あの時?」
切り裂きジャックが彼の父親だと知った時は心配したけど、どうやら彼にいい影響を与えたことに安心した。
そう思っていると、ジャック君が私の方を見て真剣な顔でそう言った。
…………あの時って、いったいいつのことだ?
「団長から外出自粛を言い渡された時。いろいろと酷いこと言っちゃったし」
「気にしていませんので、大丈夫ですよ」
「もう少し気にした方がいいと思うんだけどね…………俺、サーヤに嫉妬してたんだ」
思わず首をかしげると、ジャック君は苦笑しながら言う。
いや、正直あの時そこまでひどいこと言われたと思っていなかったんだけど。
酷い事って言うのは、人を貶めるような言葉の事を言うと思うし。
そう思っていると、ジャック君がしょんぼりとしながら言った。
…………嫉妬?
ジャック君が?
どうして?
まず、嫉妬なんてされていなかったような気がするんだけど。
日本みたいに、嫉妬されたら嫌がらせとかされるだろうし。
「俺の個有スキルは、敵が俺を攻撃しなきゃ意味がない能力なんだ。でも、俺は痛いこと嫌いだし。それに、サーヤみたいにどんな状況でも覆せるような凄い物ってわけでもないし。…………でも、なんでだろうね。あの時は、この個有スキルで良かったって思ったんだ。自分の身体能力も意味なかったしサーヤの道具も効かなかったのに、個有スキル使ったら簡単にあいつは傷ついた。…………なんか、ちょっと酷いこと言っちゃったね」
「別にいいですよ。私とジャックさんの個有スキルは、得手不得手が全く違いますからね。ジョゼフさんの言った通り、お互いのマイナスを補えばいいんですよ」
淡々と言いながらも、最後には苦笑しながら言うジャック君。
ジャック君が自分の固有スキルを好きになれたんならいいと思う。
正直、切り裂きジャックに道具があまり効いていなかったのは事実だし。
隙ぐらいしか作れていなかったような気もする。
…………まあ、まだまだ改善点はあるということだろう。
「うん…………そう言えば、サーヤは武器の事良いの?」
「あ」
改善点をまとめようと考えていると、ジャック君にそう言われる。
…………武器の存在、すっかり忘れていた。
いやだって、切り裂きジャックだの健康診断週間だのいろいろとあって忘れちゃったんだもん。
…………25歳の『だもん』は普通に気持ち悪いな。
そう思っていると、ジャック君が私の手を掴んで明るい表情を浮かべた。
「なら、俺と一緒に買いに行こうよ。見た目じゃ武器とわからないもの。俺、一個思いついたんだ」
「じゃあ、行きましょうか」
次回予告:とある店に行く紗彩とジャック
ジャックが、武器として推薦した物とは?




