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(159)波乱

~アルカード(アル)目線~



 嫌そうな表情を浮かべながら出て行ったジャックを見ていれば、私は思わず苦笑してしまいました。



「それにしても…………あいかわらずジャックは彼のことが嫌いなのですね」

「誰にだって、相性の悪い奴ぐらいいる」



 私がそう言えば、団長は疲れた表情で眉間の皴を揉んでいた。

 そんな団長の反応に、私は苦笑を浮かべることしかできませんでした。


 前々から、合同鍛練のたびに突っかかっていますからね。

 まあ、相性の悪い相手であれば私もいるので文句は言えませんけど。


 とは言っても、今回は今までの中でもっとも荒れるでしょうね。



「そうですけど…………彼の立場的にはサーヤと関わらざるを得ないと思いますよ? 何しろ、彼は竜人騎士団の中では騎士兼技師という立場なのですから」



 竜人騎士団の技師は、ジャックとは20歳ほど年の差のある少年です。

 年も身長も近いので話も合うのかと思いましたが…………まさかあそこまで相性が悪いとは思いませんでしたよ。


 竜人騎士団の『キキョウ団長』と『ロルフ副団長』は特に気にしていませんが、技師のあの目を白黒させた姿は本当に申し訳ないのですよね。

 私達が注意しようにも、技師の方がわざわざジャックに近づきますし。



「…………何が言いたい」

「荒れると思いますよ。ジャックにとって、彼女はたった一人の妹分ですから」



 頭を抑えながら私を見る団長。


 ジャックの中で、サーヤが特別な立場にいるのはあの二人の会話を聞いていれば気付きます。

 だからこそ、サーヤが彼と関わることを嫌がりそうです。

 関わる可能性は大きいですけど。


 何しろ、技師という共通点がありますからね。



「別にいいだろう。もともと、サーヤに関しては一波乱はあると予想できるからな」

「あ~、竜人は子供が大好きですものね」



 竜人族は、長命なことが影響しているのか子供が少ない。

 子供は、すこやかに成長することが仕事だと公言しているぐらいです。


 皆が皆、子供を慈しむことを当たり前としている種族です。

 そこだけを見れば獣人とは共通していますが、子供であろうと実力があればある程度の役職をつける獣人とは違い、竜人は実力があろうと子供に役職をつけることはありません。


 子供は守るべき存在。

 実力があろうと、成人するまでは守る存在としか見られません。


 そこが獣人との違いであり、私達が危惧することです。

 大切な物ほど、懐にしまってしまおうという彼らの守り方。

 私達にとって、彼らの守り方は子供の可能性を潰しているようにしか見えませんからね。



「正直に言えば、彼らの年齢からすればサーヤの年齢は赤子扱いでしょうね」

「…………ジョゼフですら坊や扱いをしたからな、あいつら」



 真面目な性格と年齢に会わない冷静さと優秀さを兼ねそろえていますが、サーヤはまだ生まれて25年ほどしかたっていない幼子です。

 しかも、ここに来る前に置かれていた環境は明らかに異常な環境。


 ジャックのように大きくはなくても、小さな影が見え隠れしています。

 あの騎士団の団長や副団長が知れば、サーヤを引き取るという行動にも出そうです。


 私達の騎士団の中では、最も年上と言われているジョゼフ。

 彼らはあろうことか、そんな彼を坊や扱いしましたからね。

 すぐに謝られましたが、やはり長寿な種族にとって私達は子供扱いを受けてしまうのでしょう。


 ですが、私達としてはすでに彼女を専属技師として認めています。

 さすがに、引き取られるのは困ります。


 何より、彼女は自身の行動を否定されることに慣れているようにも見えます。

 引き取るなどという行動を知って、否定されたと思われる可能性だってありますし。



「副団長の方が、何か言ってきそうですね」

「ああ、団長の方は…………正直予想がつかないからな」



 竜人騎士団の副団長…………あの凶悪な顔に似合わず小さいものや可愛いものが好きという『ロルフ副団長』。


 まあ、確かに言ってきそうですね。


 あとは、団長の方も…………正直に言えば『キキョウ団長』って苦手なんですよね。

 何考えているかわかりませんし、失礼ですがあんまりにもギャップが激しくて。


 そう思っていれば、団長が驚くべき言葉を言いました。



「まあ、問題は切り裂きジャックの処遇の方だな」

「何故? 竜人の国では被害は出ていませんよ」

「…………俺の予想だが、切り裂きジャックの種族は竜人族だ」

「な!?」



 待ってくださいよ、団長。


 あなたの話が正しければ、切り裂きジャックの処罰がかなり面倒なことになりますよ!!



「本当なのですか?」

「ああ。装備を外した時に、手の甲に鱗があった」

「なるほど…………ならば、竜人の国の者を狙わない理由も頷けますね。何しろあの国の騎士団ほど、勧善懲悪を体現した騎士団はいませんからね」



 もともと竜人の国では犯罪者は家畜以下の存在と言われるほど、犯罪に対して厳しい目で見られますからね。

 成人していなければまだ背景や理由なども考慮されますが、成人であれば国中から忌むべき存在という扱いになりますからね。


 まあだからこそ犯罪の防止になり、犯罪がかなり少ないというのもあるのでしょうが。



「まあな。被害にあっているうちの国の上層部としては、切り裂きジャックは死刑に処したいだろうな。何しろ、うちの国には被害者が多い」

「ですがあの国の出であれば、処罰について反対しそうですね」



 それはそうでしょう。

 うちの国の死刑とは、被害者や被害者の遺族が復讐に走ることを防ぐためにあるのですから。

 もし死刑が執行されなければ、下手したら暴動が起きますよ。


 嫌ですよ、私。

 被害者の無念のこもった瞳や、遺族の哀しい瞳を力づくで抑えるのは。


 だからといって、竜人の国が大人しくしているとは思いませんけどね。

 あの国の出身である以上、犯罪の抑止力や国のプライドにかけて切り裂きジャックの引き渡しを要求してきそうですね。


 ハーフに死刑。

 ジャックになんて言えばいいのでしょうか?





「…………面倒だな」

「ええ、面倒ですね」



 思わず遠い目をしてしまったのは、きっと団長も同じなのでしょうね。






次回予告:とうとう始まる健康診断

     開始早々、紗彩はため息を吐いた

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― 新着の感想 ―
[一言] ジャックとの、相性の悪い彼とは…それはそれは、気になります。そして、サーヤの年齢では、竜人族にとっては、赤子どうぜんとは…どうなる事やら、ハラハラ・ドキドキします。続き楽しみです。(*^▽^…
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