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(156)家族②

~ジャック目線~



「さてと、それじゃあ報告書も兼ねて話をしようか」



 説教を終え戻ってきたジョゼフ先生は、サーヤを近くにあった椅子の上にのせ自身も椅子に座りそう言った。



「まず切り裂きジャックだけど、ほぼほぼ戦力をそげたから今は牢屋の中だね」

「…………あの、少しいいですか?」



 ジョゼフ先生の言葉を聞いた後、俺はそう区切った。


 俺は、全部話した。

 切り裂きジャックの言葉を、一言一句逃さずに。

 例え、俺が切り裂きジャックの息子だと知られてもかまわなかった。


 …………せめて、あの人があんなふうに狂ってしまった元凶__母親の存在を知ってほしかった。


 俺の話を聞き終わったジョゼフ先生とサーヤは考え込んでいる。



「なるほどね…………つまり、ジャック君は君の実母が何らかの事件を起こした可能性があると言いたいんだね」

「正直に言えば、これは完全に勘です。でも俺を捨てた時の母親とあの人の話からして、あの人__父親が種族関係なく女性を襲うほど復讐心に捕らわれたのは父親の言っていた『あの子』が関係していると思うんです」



 ジョゼフ先生の言葉にうなずきながらも、俺は自分の考えを言う。


 物的証拠なんて存在しない。

 でも、そんな話を二人は疑うこともなく聞いてくれる。


 それが、俺にとってはすごくうれしかった。

 だって団長たちはいつも忙しいから、確証のない話で時間を取ってもらうわけにもいかないし。


 『あの子』が、誰なのかもわからない。

 でも、あの声音からして父親にとってはとても大切な存在だった。

 だからこそ、それを奪われて狂った。


 …………たぶん、その奪い方も__



「…………言いたくないですけど、ジャックさんの母親は『あの子』を殺したんじゃないんですか?」



 俺が思ったことを、どうやらサーヤも思ったらしい。

 彼女は、いつもの無表情でそう言った。


 でも、ジョゼフ先生はそんなサーヤをたしなめた。



「…………サーヤ君、確証もないのにそう言うのはいけないよ」

「すみません。ですが、その可能性もあるんじゃないかと思います」

「正直に言えば、俺もその可能性が最も高いと思う」



 あの状況からすれば、それ以外に思いつかない。


 『あの子』は、母親に殺された。


 たぶん、母親は切り裂きジャックのことが好きだったんだと思う。

 一夜限りの一方的な関係を持って、俺を生み、そして俺を切り裂きジャックを縛るための枷にしようとした。

 その過程での間か、その後に『あの子』を殺した。

 そして、切り裂きジャックは復讐心に捕らわれて母親を殺すために行動した。


 …………俺の予想だと、こんな感じだ。

 正直、あの母親ならやりそうだと思った。


 …………なんで、嫌な思い出ほどくっきりと残ってしまうんだろうな。



「俺は、母親に愛されなかったし必要とすらされなかった。でも父親の話を聞いて、母親はいったいどれほど恐ろしい行動をしたんだって思った。…………母親は無罪だって言えるほどの信頼を、俺は持っていない」



 改めて言葉にすると、心が痛む。

 思わず、俯いてしまう。


 母親に愛されたかった。

 父親に愛されたかった。

 一緒に遊びたかった。

 一緒にご飯を食べたかった。


 叶わない、そんな願いが浮かんでは消えていく。

 

 鏡がないからわからないけど、俺の表情はきっとヤバいんだろうな。

 だって、サーヤが珍しく無表情を崩して心配した表情を浮かべているから。



「ジャック君、君は眠っていたからわからなかっただろうが、この二週間の本部内がどうだったか想像つくかい?」

「え?」



 そう思っていると寂しげなジョゼフ先生の声が聞こえて顔をあげれば、寂しそうなどこか呆れたような表情を浮かべていた。



「一人一回は、医務室に来て君が起きたかを聞きに来たよ。サーヤ君は、ここでずっと私の手伝いをしてくれた。シヴァ君たちもなんだかんだと理由をつけては、君の様子を見に来ていた。…………わかるかい? 君は役に立たないということに固執しているけど、ここにいるみんなはそんなことを気にしてはいない。役立たずを厭う者たちが、彼らのように意識のない君を心配するかい?」

「…………」

「ジャックさん」



 ジョセフ先生の静かな言葉に驚いていると、サーヤに話しかけられた。


 サーヤは、どこか不安そうな表情を浮かべていた。



「私は、言いましたよね。ジャックさんがいたことで救われた、と。いくら、あなたでもそれを否定させないと。…………あなたは、私を嘘つきにしたいですか?」

「ちがっ」



 サーヤの言葉に、慌てて否を答える。


 サーヤは、嘘つきじゃない。

 嘘つきにしたいわけじゃない。


 …………ただ、不安なんだ。


 俺は、本当に役に立ってる?

 俺は、本当に必要とされてる?


 頭では、わかってるんだ。

 でも、やっぱり考えると不安になって来るんだ。



「私は、ジャックさんがとても努力家の凄い人だってことを知っています。努力を続けることは、とてもすごい人です」

「そんなの当たり前だよ」



 努力することは当たり前。

 だって、努力しなきゃ自分がここにいる意味が分からなくなる。


 俺は、団長みたいなヒーローになりたかった。

 誰かを助ける存在になりたかった。

 だから、強くならなきゃいけない。

 今回みたいに個有スキルに頼りっぱなしじゃなくて、自分の力で捕まえられるように__


 そう思っていると、サーヤの冷たい表情に息を飲んだ。



「その当たり前をしようともせず他者に仕事を押し付ける低能な存在のことを、役立たずというのですよ」



 サーヤのそんな冷たい声音に固まっていると、ジョゼフ先生がサーヤの肩をポンッと叩いた。



「ジャック君、私達は家族だ。彼らも家族だからこそ……君が大切だからこそ心配して、君を侮辱した存在に怒りを抱いたんだ。…………君にとって、母親の言葉は重要だろう。でも、すぐにとは言わなくてもいい。君のことを大切だと言った彼らにも、心を傾けてくれないかい?」



 ジョゼフ先生の言葉に、俺は目を見開いた。


 俺のことが大切?

 __本当に?

 役に立たないという言葉に怒りを抱いた?

 __俺は役に立ってる?


 不安だった。


 俺は、まだ悪い部分だってある。

 現に今だってこうして回復できずに、ベッドの上にいる。



「…………俺、ここにいてもいいんですか? 強くないし、冷静さだって失っちゃう時だってあるかもしれないし」

「誰だって、最初は強くない。この騎士団にいるみんな、守りたいものがあって努力して強くなった。冷静さだって、最初はみんなそうだった。でも、お互いがお互いを支え合うことでそれをカバーできる。私達は、仲間であり家族だ。だからこそ、お互いのマイナス点はお互いで補う。世の中に、最強な存在なんていないんだから」



 ポロリ


 俺の目から何かがこぼれた気がした。


 頬が冷たい。

 視界が歪む。

 鼻の奥がツンッとする。


 俺が欲しい言葉だった。

 俺が欲しい存在だった。


 家族。

 仲間。


 俺は欲しかった。

 俺を必要としてくれる仲間が。

 俺を見てくれる家族が。


 叶わない。

 そんなの分かっていたはずだった。

 だって、母親は俺のことを父親を縛る枷としてしか見なかった。

 だって、父親は俺のことを汚点としてしか見なかった。

 母親に似た憎い存在としてしか見なかった。


 俺はここにいていいの?



「…………おれ、ごごにいだい!!」

「ああ」

「ひづようどざれでないっでいわれでがなじかっだ!! でもだんぢょうみだいにだれがをだずげだがっだ!!」



 涙と鼻水で、声がガラガラになる。


 俺はここにいたい。

 団長みたいに誰かを助けたい。

 必要とされたい。


 …………悲しかった。

 なんで、俺は必要とされないの?

 俺は、何か悪いことしたの?


 父さんは、なんで俺自身のことを見てくれないの?

 母さんとは似ているだけなのに、なんで俺のことを見てくれないの?

 母さんも、なんで俺を捨てたの?

 俺が父さんに似てないから?


 そう思っていれば、温もりが俺を包んだ。






「君は助けたよ。切り裂きジャックから女性を助けた。サーヤ君を逃がした。…………切り裂きジャックを倒した。どんな状況下でも、諦めなかった君だからこそ成し遂げられた」

「うう…………うあああああああああん!!」




 耳元で聞こえたジョゼフ先生の暖かい声。




 俺は、気づいたら大声をあげて泣いていた。






次回予告:紗彩目線で語られる物語

     彼女は気付かない

     自身の心境の変化に

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― 新着の感想 ―
[一言]  たびたび前の世界の闇が紗彩から垣間見えます(笑)  これでジャックはもう大丈夫ですね( ´∀` )b
[一言] 此で、やっと、ジャックは、泣くことにより、心の、わだかまりが、まだ、完璧では、ないかもしれませんが、溶けていったのでは、と思います。此から、ジャックが、前向きになってくれると、信じてます。後…
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