(148)傷つける権利
~紗彩目線~
「まあ、いいや~。俺はね~、あのワンちゃんは死んでも仕方ないって思うからどうでもいいからお話しようよ~~」
「は?」
何でもないように。
まるで、『ちょっとお使いに行ってきて』と気軽に言うように彼は言った。
しかも、満面の笑顔で。
「何を……言って……」
「ん~?」
私の言葉に、彼は首をかしげている。
何か変なことを言っただろうか?
そんな表情を浮かべていた。
…………切り裂きジャックもおかしいとは思ったけど、彼と同じぐらいこの人はおかしいと思った。
だって、そうだろう。
死んでも仕方ないなんて、そんな気軽に言える言葉なのだろうか?
確かに、学生時代には悪口で『死ね』という人もいた。
でも、彼らとは何かが違う気がする。
軽々しく言っているけど、彼らとロイドさんではなんとなく何かが違う。
それが何かはわからない。
ただ、なんとなく明確な違いがある気がする。
「だって、切り裂きちゃんにはあのワンちゃんを傷つける権利があるんだよ~。だから、死んじゃっても仕方がないよね~って話」
苛立ちが湧き上がってくるけど、深呼吸をしてなんとか冷静になる。
切り裂きちゃんというのは、切り裂きジャックのことだろう。
そして、ワンちゃんはジャックさんの事。
切り裂きジャックには、ジャックさんを傷つける権利があるというのはいったいどういう意味なんだ?
普通に考えれば、誰かが誰かを傷つける権利なんてあるはずがないし。
「…………どういう意味ですか?」
「ん~?」
「なぜ切り裂きジャックに、ジャックさんを傷つける権利があるんですか?」
「だって、あのワンちゃんは存在自体が罪の証だから」
私の問いに首をかしげるロイドさんに、言葉が足りないのかと思い説明すればそんな答えが返ってきた。
意味が分からない。
ジャックさんの存在が罪の証?
いったい、どういう意味なんだ?
罪の証というのは置いておいて、罪と何らかの関係があるのだろうか?
例えばジャックさんが過去に切り裂きジャックと何らかの関係があって、切り裂きジャックがその時のことを憎んでいるとか?
…………ないとも言えない。
彼は何故か役に立つことに固執しているから、過去に何かがあってその過程でシヴァさんたちと出会った騎士団に入ったとか?
「…………ジャックさんが、何か切り裂きジャックに対して行ったということですか?」
「そ~じゃないよ~」
「じゃあ、どういう意味で」
「ワンちゃんは、罪の証。切り裂きちゃんには、ワンちゃんに恨みをぶつける権利がある。ただ、それだけ」
私の問いに笑いながら答えるロイドさんに苛立ちを感じ、いい加減にしろと思いながら聞き返せば彼は一瞬で真顔になって言った。
…………急に真顔になるのやめてほしいんだけど。
でも、いよいよ意味が分からなくなってきた。
何故、切り裂きジャックはジャックに対して恨みをぶつけるような想いを抱いているんだ?
というか、ジャックさんに原因がないんならなんで彼に当たるんだ?
元凶に当たればいいじゃん。
「…………ジャックさんが何もしていないというのなら、彼に当たるのは筋違いというものでは?」
「ん~、俺はわかんないよ~」
私の言葉に、またふざけた態度を取るロイドさん。
…………もうこれ以上は、情報を取れそうになさそう。
「そうですか。それでは、失礼します。…………貴方方の思い通りになど、絶対にさせません」
そう判断した私は、横にあった花が咲き誇っている茂みの中にもぐりこんだ。
後ろからケタケタと笑うロイドさんの笑い声が聞こえてくる。
その声に不気味に思いながらも、私は本部に戻ることに集中した。
次回予告:切り裂きジャックから逃げながらも、彼と会話するジャック
会話しているうちに、ジャックは『優しさ』とは何かを理解し始める
それと同時に、切り裂きジャックの過去が垣間見える




