(145)怒り①
~ジャック目線~
はぁはぁ。
呼吸を繰り返しながら、ひたすらに走る。
振り返らなくても、明らかに俺よりも強い気配が背後から追ってくるのを感じていれば振り返る必要はない。
…………怖いけど。
俺は、サーヤと別れた後ひたすらに走った。
建物を出て、サーヤが向かった先とは別に方向に走る。
できればなんとかここで時間稼ぎしたほうがいいんだろうが、走り回って逃げれるほど廃墟の中は広くなかった。
だから廃墟から出て、なんとか周囲を走り回っている。
…………息が苦しい。
気配からしてまだ距離はあるだろうし、少し物陰に隠れて休むか。
そう思いながら、花がたくさん咲いている茂みの中に隠れる。
「ねぇ、リトルレディ。どこかに隠れているのでしょう?」
そんな切り裂きジャックの楽しげな声が聞こえて、緊張で体が硬くなる。
ドキンドキン。
そんな音が、今にも周囲に聞こえそうだ。
「ねぇ、リトルレディ。あなたは、何故あの男の元にいるのです?」
息をのみ気配を探っていると、そんな声が聞こえてくる。
『あの男』?
いったい、どういう意味なんだ?
恐怖で狂いそうになりながらも、なんとか深呼吸を繰り返して冷静さを保つ。
というか深呼吸していないと、大声を出して逃げたくなる。
…………サーヤに任せなくて、本当に良かった。
でも、『あの男』っていったい誰なんだろう?
「あの男ですよ。騎士団の長を務める男のことですよ」
切り裂きジャックの言葉に、呼吸をするのは一瞬忘れた気がした。
『あの男』って、団長の事?
いや、『騎士団の長を勤める男』なんて言葉はこの国だと団長以外で当てはまる人なんていない。
でも、なんでサーヤが団長の元にいる理由をわざわざ聞くんだ?
「『彼』の話では、ずいぶん酷い男らしいですよ。すべてを独り占め、そして自分のことしか考えない。リトルレディ、何故あのような男の元にいるのです?」
__は?
切り裂きジャックの言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。
ふざけるな!!
団長が、酷い男?
独り占めして、自分のことしか考えていない?
ふざけるな!!
団長のこと、何も知らないくせに!
団長は、俺にとって恩人なんだ!
光なんだ!
犯罪だと知っていても、捨てられたくなかった俺みたいなゴミクズを拾ってくれたんだ!
そんなあの人を__団長を侮辱するな!!
次回予告:怒りに震えるジャック
だがとあるハプニングでジャックの身に危険が迫る




