(144)変身
~ジャック目線~
「良いですか? 片方が破壊されてしまえば、効力を失います。落としたりして、絶対に割らないように」
「わかった」
真剣な声音で言うサーヤに、俺は頷く。
俺は囮となって、サーヤが団長たちを連れてくるまで時間稼ぎをする。
かなり無謀な作戦だけど、サーヤに行かせるよりはまだ俺が行ったほうが上手くいく可能性がある。
頭を冷やせ。
そう言われて、いろいろと考えた。
俺とサーヤの違い。
俺の個有スキルの使い道。
考えた結果、この方法だ。
上手く使えば、俺の個有スキルだって役に立つかもしれない。
…………万が一この作戦が失敗して俺の命が危なくなっても、サーヤの安全が確保されればこんな俺でも役立たずじゃなくなるだろう。
上手くいくかはわからないけど、できればサーヤとの約束は守りたいな。
こんな役立たずな俺相手にも、おまじないをやってくれたサーヤの想いを無駄にしたくないし。
そう思いながら、サーヤからもらった鏡を上着の内ポケットに入れる。
その瞬間、視界に綺麗な文字が広がった。
「…………マジで、サーヤになった」
「この鏡を破壊されてしまえば、変身は解けてしまいます」
目を開ければ、俺の身長は目の前のサーヤと同じ高さになっていた。
服を見れば、サーヤと同じ服。
髪の色も、頭の上にあるはずの耳も、腰にあるはずの尻尾もすべてなくなっていた。
やっぱり、サーヤの道具ってすごいな…………。
そう思いながらも、この辺りの地図を思い出す。
障害物が多くて、できれば本部に早くつける道。
そう考えると、林を通る道を思い出す。
歩けるけれど、完全に道としては成立していない。
その分障害物が多くて、サーヤの身長なら余裕で隠すことができる。
何より、あの林の中なら騎士団がある程度整備したことで魔物が出る危険性はほぼゼロだ。
あの道なら、サーヤでも安全に行ける。
「じゃあ…………行くよ」
俺はサーヤにそう言い、物陰から飛び出す。
サーヤの真似…………正直、サーヤが真似しやすい口調でよかったと思う。
一人称は私で、敬語を使う。
少なくとも、この二つを抑えておけばサーヤの真似はできる。
サーヤの説明じゃ、鏡がコピーできるのは見た目だけ。
個有スキルをそのままコピーすることはできない。
でも、武器や目に見えるものはコピーできる。
だから、サーヤと道具を分け合った。
使い方は、だいたい頭の中に入っている。
少なくとも、これを使ってなんとか時間を稼がないと!!
「切り裂きジャック! あなたは、私が相手です!!」
切り裂きジャックの前に出ながら、そう叫ぶ。
本当に声までサーヤだ。
個有スキルはコピーできなくても、鏡に向かって語り掛けたからか声は変化する。
なんか、本当に不思議な道具だな。
そう思っていれば、切り裂きジャックはゆっくりと俺の方を振り向いた。
「おやおや、無謀ですねぇリトルレディ。まさか、お一人で私を相手しようと?」
心底愉快だ、と言いたげな声音で言う切り裂きジャック。
このまま話していても、埒が明かない。
なんとか、こいつをここから離さなきゃいけないんだ。
…………危険だが、煽るか。
「あなたみたいな腰抜けなんて、怖くもありませんからね!」
「おやおや…………どうやらリトルレディには少々教育が必要のようですねぇ。年上は、敬うものですよ?」
「あなたみたいな年上を敬おうとするのは、よほど性根がねじ曲がった方でしょうね!!」
俺の言葉に、切り裂きジャックの声はさっきよりも数段低くなる。
それに気づかないというように、俺は背を向けて外へと走る。
サーヤ、後は頼んだよ!!
次回予告:逃げるジャック
追う切り裂きジャック
ジャックが見つけたのは、過去の自身の住処だった




