(141)久しぶりの会話
~紗彩目線~
あれから、一か月がたった。
結局、あの日からジャックさんと話すことがなかった。
いや、なかったというよりはジャックさんに避けられているんだろう。
たぶん、シヴァさんたちも気づいているんだろうけど。
そう思いながらも朝食を済ませ、いつも通りシヴァさんに部屋で出道具作りに励む。
最近は、慣れてきた道具を量産することを重点的に行っている。
一か月前、切り裂きジャックと遭遇した後道具がかなり不足してしまったから。
それを反省して、余裕を持てるだけ作っておくようにした。
改めて作った道具類をカバンの中に入れていれば、ノック音が聞こえてきた。
顔を出せば、声の主はジョゼフさんだった。
「え、健康診断ですか?」
ジョゼフさんから言われたのは、健康診断のことだった。
あの、一週間ほどかかるという健康診断。
たしか、一か月ほど前にやると言われていたけど切り裂きジャックの起こした事件でうやむやになっていた話だ。
ジョゼフさんの話ではあの事件以来切り裂きジャックの事件が起きておらず、切り裂きジャックがこの国を去った可能性が最も高いらしい。
まあ平和なのが一番だけど…………本当にいなくなったのだろうか?
「事件も最近は落ち着いてきたからね。そろそろ、行おうかと思っているんだ。あと、サーヤ君の外出もシヴァ君から許可されたよ。一人きりはまだ危険だから、出歩く場合は誰かと一緒に行ってほしい」
「わかりました」
優しげな笑顔を浮かべるジョゼフさんの言葉に頷けば、彼は私の頭を撫でた後部屋から出て言った。
…………ちなみに、この撫でるという動作にはもう慣れてしまったけど。
そう思わず、遠い目をしながら考える。
そろそろ道具作りの材料が足りなくなってきたから、買いに行こうと思ったところだった。
でも、予想通りまだ一人での買い物は許可されない。
…………いや、今までにも許可されたことなんてなかったけれど。
とりあえず、今日休みの人にでも頼むか。
そう思って部屋を出て廊下を歩いていれば、ジャックさんに遭遇した。
一か月ほど前までの暗い表表ではなく、真剣ながらもどこか不安げな表情を浮かべていた。
「あ、サーヤ…………どうしたの?」
「ええと…………使おうと思っていた材料がたりなくてどうしようかと思っていまして」
「…………じゃあ、俺と一緒に買いに行こう?」
私がそう言えば、ジャックさんは首をかしげながらそう言った。
そんなジャックさんに私は驚いてしまったけど、よくよく考えれば私一人で外出することはできない。
だからこそ、彼の申し出は嬉しかった。
…………喧嘩別れのような感じになったけど、私としてはジャックさん本人とはいえジャックさんのことを悪く言われたくない。
だからこそ、私は謝るつもりはない。
今まで面倒くさくなった時は謝っていたけど、大切な相手だからこそ真剣に相手と向き合いたいから。
次回予告:出かけた二人を待ち受ける事件
紗彩は、一回でもいいからお祓いを受けるべきかと思ってしまう。




