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(139)最低な奴

~ジャック目線~



「さて…………とりあえず二人にはしばらくの間外出を自粛してほしい」

「待ってください!!」



 その言葉を聞いた瞬間、俺の口からそんな言葉が出てきた。


 でも、そんなこと気にしていられなかった。



「俺は、まだできます!! 俺は、まだ戦えます!!」



 俺は、また捨てられるの?

 また、無能だって言われるの?


 ねえ、団長。


 俺、まだ戦えるよ。

 個有スキルだって、相打ちを狙えばまだ使えるよ?

 肉壁にだってなれるよ?


 だから…………だから捨てないでよ。



「戦える・戦えないの問題じゃない。お前たちは、しばらくの間外出自粛だ。本来なら禁止だが、自粛にしているんだ」

「なんでですか!? 俺は、まだやれます!! 失敗もしません!! 反省しました!! だから」



 なんで、団長。


 なんで、俺は外に出ちゃダメなの?


 なんで、俺は戦っちゃダメなの?


 俺が、悪い子だから?


 俺が、切り裂きジャックを捕まえられなかったから?


 俺が、敵を前にして逃げちゃったから?



「反省と言いますが、何を反省したのですか? それを簡潔に言いなさい」



 副団長に言われても、意味が分からなかった。


 悪いところって、どこ?


 反省したら、団長は許してくれる?

 許してくれるなら、何か言わなきゃ。


 何か。

 とにかく、何か言わなきゃ。



「……S級の犯罪者に無謀にも攻撃したから」

「それをしなければ、サーヤが危険でしたよ」

「……サーヤの道具に頼ったから」

「もともと彼女の道具は、そのためにあるような物でしょう? 彼女本人も、その用途のために制作していますし」

「…………」



 他に何がある?

 僕の悪かったところ。


 反省しなきゃ。


 じゃなきゃ、また捨てられる。

 また、置いていかれる。

 また、絶望する。


 また、一人になる。



「ジャック、理解していないのに軽々しく『反省しました』と言う言葉を使ってはいけませんよ。この言葉は、自身の行いの悪い部分を理解し改めようと誓った者が言う言葉です。反省するだけ行動しなくては、成長にもつながりませんからね」

「…………とにかく、ジャック。お前は、しばらくの間頭を冷やせ。その状態で動いても、他の奴らの迷惑にしかならないぞ」



 迷惑。


 今の俺は、みんなの迷惑?

 だから、団長は俺を捨てるの?

 みんなに迷惑をかけるから?


 …………もしかして__



「…………俺の個有スキルが…………役立たずだからですか?」



 俺は、サーヤみたいなすごいスキルを持っていない。

 だから、団長は俺のことをいらないと判断したの?


 俺がもっとすごくて強いスキルを持っていれば、俺は団長にも…………母さんにも捨てられなかった?



 そこからは、もう駄目だった。


 団長の顔を見ていたら、とても怖くなった。

 だから、逃げるように部屋を出た。


 なのに、サーヤは追ってきた。


 ねぇ、サーヤ。

 お願いだから、今の俺に近づかないで。


 きっと、俺。サーヤに酷いこと言っちゃうから。


 そう心の中で思うと同時に、どす黒いなにかが湧き上がってくる。


 いいなぁ、サーヤは。

 強いスキルを持っていて。

 団長にも捨てられなくて。

 副団長にも怒られなくて。


 俺も役に立ってたら、俺は捨てられなかったのかな?



「俺が役に立たないから? だから、団長も俺を捨てるの?」

「そんなことはないですよ。シヴァさんはただ、切り裂きジャックのことを警戒してああ言っただけですから」



 悔しくてそう呟いたら、サーヤにそう言われた。


 でも、その言葉を聞いた瞬間俺の頭の中がカッと熱くなった。



「なんでだよ!! 俺は!!」

「できないでしょう?」



 俺が叫んだ瞬間、サーヤはジッと無表情でそう言った。



「私達がここにいるのは、ある意味切り裂きジャックが私達を見逃したからです。彼が本気なら、私達は今頃ここに立ってはいません。…………私達の実力では、彼を捕まえるどころか逃げることだけが精いっぱいです」

「………………」

「悔しい気持ちはわかります。私だって、他人を傷つけることを楽しんでいるあのクソ野郎をぶっ飛ばしたいですから」

「…………俺は、なんでこんなにダメなんだろう?」

「ジャックさん?」



 サーヤは、今でもすごく冷静だった。

 冷静に今の状況を、俺達の立ち位置を分析した。


 …………俺が、勝手に苛立っている隣で。


 でも、これで納得できた。

 俺が必要とされない理由。


 サーヤにはできるのに、俺にはできない。

 冷静に状況を判断できない。


 そんなことができなきゃ、俺は騎士として必要なしの烙印を押されるだろう。



「いつだって、そうだ。俺は、何もできない。みんなができるのに、俺は何もできない。…………捨てられたって、文句は言えないんだ」

「…………ジャックさんは、シヴァさんが自分の部下を捨てるような人に見えるんですか?」

「そんなことない!! 団長は、役立たずな俺を拾ってくれた!! …………ただ、俺が役立たずなだけなんだ」



 サーヤの言葉を聞いた瞬間、俺はカッとなって怒鳴ってしまった。


 団長は、こんな役立たずの俺を拾ってくれた!

 諦めないところが、お前の美徳だって言ってくれた!

 お前の今までの経験を、騎士として生かしてくれって言われた!


 …………初めて、俺という個人を必要としてくれた。


 ただ、俺が団長の想いに答えれなかっただけなんだ。

 俺が弱かったから。

 俺の固有スキルが役に立たなかったから。



「ジャックさんは、役立たずなんかじゃありません」

「サーヤに何がわかるんだよ!!」



 サーヤの言葉を聞いて、とうとう俺の中で何かが弾けた。


 俺が、役立たずじゃない?

 何を言っているんだ、サーヤは。



「サーヤは、すごい道具で団長たちの役に立ってる!! サーヤは、俺でも知らないような知識を持ってる!! サーヤは、いつも冷静に物事を見てる!! …………俺にできないことをやってのけるサーヤに、俺の気持ちなんて…………」



 俺にないものを持っているくせに。


 知識を。

 役に立つ個有スキルを。

 冷静に分析する能力を。


 なんで、俺にはないの?


 なんで、サーヤは持っているの?


 なんでいろいろ持っているくせに、俺にそんなこと言えるの?



「私は、ジャックさんに救われました」

「…………え?」

「ジャックさんがあの時ボールで切り裂きジャックの意識を私から外してくれたことで、私は道具を取り出すことができました。ジャックさんがいたことで、意識のない女性を運ぶことができました。私には逃げるための脚力があっても、腕力も背もありません。全部、道具頼みです。道具がなければ、私は逃げることしかできません」



 意味が分からなかった。


 サーヤの道具はすごい。

 なのに、なんでサーヤはそんな悔しそうな声を出すの?



「何より、私はジャックさんがいることで安心できました」

「…………安心?」

「はい。目の前にはS級の犯罪者がいて、私が冷静で入れたのはジャックさんのおかげです。…………ジャックさんに時間を稼ぐように言われた時、私は一人じゃないんだって思えたんです。…………だからいくらジャックさんでも、ジャックさんのことを役立たずなんて言わせません。…………失礼します」



 俺がいたから、サーヤは冷静にいることができた?


 なんで?


 サーヤは、一人じゃないじゃん。

 団長もいる。

 副団長もいる。

 ジョゼフ先生も、ノーヴァさんも、セレスさんもいる。


 なのに、なんでそんなに寂しそうな目をしているの?

 なんでそんな寂しそうな目で、俺にそんなことを言ってくれるの?


 さっきまであった真っ赤な感情がシュルシュルとしぼんでいくのを感じる。


 さっきまであった苛立ちが消えた。

 それと同時に、自分があんまりにも最低で嫌な奴だという想いがむくむくと湧き上がってくる。



 俺は最低だ。


 自分が役に立たないだけなのに、サーヤにあたっちゃった。

 サーヤを傷つけた。


 サーヤのおかげで、俺はここにいるのに。

 サーヤがいなきゃ、俺は死んでいたかもしれないのに。








「…………俺って、嫌な奴だな……」



 謝りたい。


 でも、今は謝れない。


 また、サーヤを傷つけちゃうかもしれないから。




次回予告:悪夢の中のジャック

     悪夢の中で明かされるジャックの過去とは?

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