(137)だから見習い
~アルカード(アル)目線~
「…………予想通りと言うべきか」
「そうですね」
出ていった二人を見て、そう団長が言いました。
予想とはいえ、さすがに本当になってしまうと頭を抱えたくなりますね。
「ある意味では、いつかはああなったのでしょうね。ただ、サーヤが来たことでそれが早まったのでしょう」
「…………」
もともと、ジャックには不安要素はありました。
彼の過去から考えても、やはりどこかで不安定になるでしょう。
それが、サーヤと言う存在がここに来てしまったことで起きてしまいました。
そう思いながら言えば、団長はため息を吐いて俯きました。
まあ、気持ちはわかりますが。
「団長、厳しいことを言いますがジャックだけを見ているわけにはいきません。何しろ、問題が山積みなのですから」
「…………ああ」
正直に言えば、ジャックのことは私も団長も心配です。
彼はどんな状況でもあきらめないところが美徳ですが、一度思い込むと冷静さを失ってしまうのがマイナスポイントですね。
そして何より、彼の行動と言動が示すのは__
「…………ジャックは、本当の意味で俺達を信じていないのだろうな」
「…………そうですね」
私が考えていることは、どうやら団長も同じだったようですね。
ジャックは、私達を本当の意味では信用していないのでしょう。
だからこそ、ああして私達を疑ってしまいます。
__私達が彼を捨てるのだ、と。
実際、私達は彼を捨てる気なんてありません。
当然でしょう?
彼は、私達の大切な仲間なのですから。
ですが、今の彼は私達の言葉を信じることはできないでしょう。
何しろ、彼自身がいまだに不安定で周囲を疑っているのですから。
「ですがそこがジャックの課題であり、見習い止まりの原因でもあるのですがね」
ため息を吐きたい気持ちになりながらも、私はそう言いました。
見習い騎士と騎士の違いは、意外に簡単なものです。
一般の方からは実力だろうと思われがちですが、実力と共に精神面も重要視されます。
騎士と言うのは、どのような状況でも冷静に判断し行動しなければいけません。
止まることもできません。
そうしなければ、一般市民に危険が及ぶかもしれないのですから。
ジャックが見習い止まりなのは、精神面の部分で引っかかってしまうのです。
…………彼は、親に自身を否定されそのまま捨てられました。
だからこそ、誰かに必要とされることが自身の生きがいと考えてしまっているのでしょう。
実際に彼が騎士に志望した理由は、自身を救ってくれた団長のようなヒーローになりたいからというものでしたし。
ヒーロー__神人族が伝えた物語に出てくる救済者。
物語の中でのヒーローは人々を救い、人々から感謝されました。
少し複雑な気分になりますね。
「…………相性は良いと思ったんだがな」
「ええ、そうですね。ですが相性がいいと同時に、いびつな関係にも陥りやすくはありますね」
団長がポツリと言った言葉に、私は同意を示しました。
相性の良さと言うのは、サーヤとジャックのことでしょう。
実際、私としてもあの二人は相性がいいと思っていたんですけど。
ジャックのいい部分は、どんな状況でもあきらめない部分です。
ですが、時々冷静さを欠いてしまうというマイナス部分があります。
サーヤのいい部分は、どんな状況でも冷静さを失わずに状況を分析します。
ですが、冷静に判断すると同時に影響が自分だけの時は諦めてしまう節が見られます。
だからこそ、この二人を合わせればいいと思ったのですが…………あのジャックの状態からして他にもマイナスな部分がありましたね。
私の予想ですが、ジャックは初めての歳下の存在に兄貴分としてサーヤを導きたかったのでしょう。
彼の過去からしても、誰かの役に立つことは頼られること__必要とされることはとてもうれしいことでしょう。
ですが、サーヤは精神面が大人すぎてよほどのことがない限りは周囲を頼りません。
ここに来た最初の頃は慣れないことでよくジャックや周囲の大人を頼っていましたが、最近ではその回数もめっきり減ってしまいましたからね。
何よりサーヤは頼ることはあっても、精神的にも信頼して寄りかかれていない部分があります。
言葉で表すのは少し難しいですが、たぶん信頼はされているのでしょうが一線はひかれていますね。
気付いているのか、故意なのかはわかりませんが。
それに、どこか頼ることになれていない部分もありますね。
ジャックは、どんな時でも兄貴分として頼られたかった。
サーヤは、頼ることが苦手だった。
お互いのプラスな部分が合致すると同時に、マイナス部分で引っかかってしまったのでしょう。
あとは個有スキルのことでしょうが…………これに関しては仕方がないと思いますね。
どういったスキルを得るのかは、本人も選べるわけではありませんし。
何より、ジャックの個有スキルは別に役に立たないわけではありません。
というか、まず系統が違いますからね。
サーヤは補助、ジャックは攻撃。
明らかに、使う場面が違います。
サーヤが常日頃からスキルを使っていたのは、彼女のスキルが補助系統であると同時に『魔法を使えない』と言うマイナスがあったから。
だから常日頃からスキルを使い、もしもの時のために備えているのです。
ジャックの場合は、どちらかと言えば戦いという場面だからこそ役に立つスキルです。
だからこそ、彼女のように常日頃から使う必要がありません。
…………この事もしっかりと言い聞かせましょうか。
「…………難しいものだな」
「ええ、難しいものです。何より、悲しいものです」
団長の言葉に、私は深いため息を吐きながら同意しました。
ええ、非常に難しく悲しいものですよ。
確かに、子供にとって親と言う存在は大きいのでしょう。
ですがもう十何年も前に捨てた母親の言葉を未だに引きずって、私達を信じてくれないのはとても悲しく寂しくもあります。
「…………私は、一生理解できる気がしませんね」
ええ、理解なんてできませんしするつもりもありませんよ。
もうすでに縁を切ってしまった存在なんて。
次回予告:ジャックと言い合いに発展する紗彩




