(135)事情聴取
~紗彩目線~
「それでは、報告をお願いします」
所変わって、第一執務室。
無事に眠りから覚めたジャックさんと私は、シヴァさんたちからの呼び出しで第一執務室に来ていた。
部屋の中に入れば、ピリピリとした緊張した空気が流れているのを服越しに感じる。
…………こういう時の第一執務室って苦手だな。
時々、あのセクハラ野郎のこと思い出すし。
顔と空気に似合わず、セクハラしてくるからな。
そう別のことを思っていれば、いつもよりも数段低く硬い声音でアルさんにそう言われた。
非常に重い空気。
正面で椅子に座って此方を見ているシヴァさんから、ものすごく威圧を感じる。
そんな空気に、あの時の嫌な記憶がちらつく。
私は何もやっていないのに、一方的に悪者にされたあの時を__。
そう思っている間に、ジャックさんがシヴァさんたちに説明する。
「…………なるほど。運が良かったと言うべきでしょうか。それとも、何らかの狙いがあるのでしょうか?」
難しい表情で考えこむアルさんが、そんなことを言う。
確かに、運は良かったかもしれない。
基本、S級は幹部クラスや騎士団長クラスでなければ対処はできない相手。
見習いであるジャックさんや、まず騎士ですらない私が相手した場合はあちらの圧勝で終わって、私達は一方的に地獄を見せられていただろう。
でも、切り裂きジャックの言葉にもいろいろと引っかかるものもある。
切り裂きジャックが言っていた『彼』という存在。
切り裂きジャックの話が本当なら『彼』と言う存在は私のことを気に入っているけど、私は『彼』と言う存在を認識していないことになる。
そして、切り裂きジャックもその『彼』からの情報で私のことを知っていた。
『彼』が、どうして私の存在を知っているのかはわからない。
でも…………もしこの世界に来てしまったことに何か関りがあるのなら…………。
私は、そう願ってしまう。
この世界に一か月ぐらいたったけど、依然として元の世界に帰る情報はない。
それどころか、過去にやって来た日本人と思わしき二人の神人族の情報すら一般的に知られている事しかわかっていない。
だからか、時々思ってしまう。
本当に元の世界に帰れるのだろうか?__と。
「あの…………切り裂きジャックの個有スキルなんですけど」
暗い思考に陥りそうになり、それを振り払うかのように報告する。
実際に報告しようとは思ってはいたけど。
私からの情報を聞いたシヴァさんとアルさんは、俯きながら顎に手を当て考え込んでいる。
「今後、切り裂きジャックがこちらに何らかの動きを取ってくる可能性はありますね。特に女性に対して有利に動けるということは、サーヤもその対象に入るでしょうし」
「ジャック、お前のおかげで被害者は助かった。サーヤ、お前のおかげで切り裂きジャックの個有スキルが判明した。…………二人とも、よくやった」
考え込んでいたアルさんがそう言えば、シヴァさんも顔をあげてそう言った。
…………ジャックさんはともかく、私は何もやっていないんだけどね。
止血したのはジャックさんだし、個有スキルの情報もレオンさんの助力があってのことだし。
少なくとも、私は礼を言われるようなことをした覚えがない。
喜ぶジャックさんの横でそんなことを思っていると、シヴァさんの表情が優しそうな表情から真剣な表情に変化した。
「さて…………とりあえず二人にはしばらくの間外出を自粛してほしい」
「待ってください!!」
「え?」
シヴァさんの言葉と共に、焦りと恐怖を織り交ぜたような声が私の隣から聞こえてきた。
次回予告:ジャックの反発
それに驚く紗彩
ただ、ジャックの反応を予想していたのか落ち着いているシヴァとアル




