(130)秘めた思い
~ジャック目線~
サーヤは、俺にとっては初めて出来た妹分だった。
今まで俺が一番年下で、誰かの上に立つことなんてなかった。
サーヤがどんな過去を持っているのかなんて関係ない。
大切な妹分を守りたい。
そう思っていたんだ。
…………だから、俺はサーヤに対してこんな思いを持ちたかったわけじゃない。
「息があります。まだ、生きています」
「とにかく、止血帯を。止血しなきゃ、危ない」
テキパキと冷静に動くサーヤ。
純粋にすごいと思った。
サーヤは俺達とは違って、直接事件現場に行くことはない。
年齢のこともあるけど、一番の理由はサーヤの個有スキル。
直接内容を聞いたわけじゃないけど、たぶん戦いには不向きな個有スキルなんだと思う。
でも、こんな状況に全く取り乱さず冷静に行動する。
事件現場には慣れていないはずなのに。
とてもとても冷静で…………なんでそんなに冷静にいられるのかがわからない。
俺は、怖い。
俺の判断が悪ければ、この人は死ぬかもしれない。
わかってる。
止血しなきゃいけないことぐらい。
でも、手が震えそうになってしまう。
…………だから、気づかなかったんだ。
俺達のことを見ていた奴の存在を。
「おやおや、なんとも不思議な石ですねぇ。あなたが作ったのですか、リトルレディ?」
俺は、サーヤの道具で守られた。
サーヤがいなければ、俺は今頃この女性のように地に伏していただろう。
そうなるかもしれなかった未来に、震えそうになるのを頑張って気合いで耐える。
耐えるんだ。
俺は、サーヤの兄貴分なんだ。
俺が不安になったら、サーヤにも移っちまうかもしれない。
「…………時間を稼いで、サーヤ。逃げる準備をするから」
俺は、そう言うしかなかった。
それと同時に、自分に対して心の中で悪態をついてしまった。
時間を稼ぐって、どうやってだよ。
そんな半端な言葉じゃ、サーヤだって困るだろ。
そう思いながらも、俺は止血帯を巻く腕を止めない。
止めることなんてできない。
俺の今の仕事はこれなんだから。
背後でサーヤが会話をして時間を稼いでくれている。
その事実に、俺はまた心の中で悲しくなってしまう。
サーヤは、とても冷静で有能。
そりゃあ、団長も重宝するだろうな。
俺とサーヤじゃ、天と地ほどの差がある。
サーヤは冷静。
俺は、なんとか耐えて冷静に見せてる状態。
サーヤの個有スキルはすごい。
それに比べて、俺の個有スキルはデメリットが多すぎてとてもじゃないけど使えない。
何より、俺は痛いことも悪感情を抱くのも嫌いだ。
__そうだ。
嫌いなんだ。
なのに、なんで思っちまうんだよ。
サーヤが羨ましいなんて。
俺は、別に妬みたいわけじゃないのに。
ただ、サーヤの兄貴分でいたいのに。
団長に必要としてほしいのに。
…………ああ、こんなんじゃあ。
____あの頃の俺と全く変わっていないじゃんか。
次回予告:逃げるために時間を稼ぐ紗彩
そんな時、紗彩はガスマスクに備わったある機能を駆使して情報を盗む




