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(129)血まみれの女性

~紗彩目線~



 ドアを開けた私達の目の前にいたのは、床に倒れ背中から大量の血を流している女性の姿だった。

 切り裂かれた背中の状態に、私は驚きと共に吐き気が込み上げてしまう。


 当たり前だ。

 こんな状況を、私は今までで遭遇したことがなかったから。

 でも、そんなことは関係なかった。


 私は、すぐさま女性の顔の近くに行き座り込む。

 口元に手を近づければ、少しだけだけれど生暖かい息が私の手のひらをくすぐった。



「息があります。まだ、生きています」

「とにかく、止血帯(しけつたい)を。止血しなきゃ、危ない」



 私がそう言うと、ジャックさんは腰に括り付けてある小さなかばんから包帯のような物を取り出す。


 止血帯と呼ばれたそれを、ジャックさんが女性の体に近づけた瞬間だった。



「おやおや、新しいお客様ですね」



 そんな声が聞こえた瞬間、私は私達を中心に四角になるように道具である石を置く。

 それと同時に、ブオンと言う音が響き石から青色の文字が私達を守るように舞った。


 私がガスマスクを顔につけた瞬間、ガキンッと言う音が辺りに響いた。



「おやおや、なんとも不思議な石ですねぇ。あなたが作ったのですか、リトルレディ?」



 そこにいたのは、一人の男性だった。

 顔には仮面を身につけ、黒色の燕尾服を着ている。

 その手には、小ぶりの刃がついた大きな鎌があった。


 あの大きな音は、あの鎌で結界を斬りつけた音だろう。

 それにしても、少し厄介な武器だな。

 逃げるまでに結界が耐えてくれるといいんだけど。


 私が今回使った道具は、結界石。

 四角や三角など過度のある形を描くように配置すると、その形のとおりに青色を帯びた透明な壁が出来上がるものだ。

 大きな声で話さない限り此方の会話は敵には聞こえず、相手の声はこちらには聞こえる。


 物理攻撃に対する強度にはまだ不安があったから改良しようと思っていたのに、まさかここで使う羽目になるとは思わなかった。



「…………時間を稼いで、サーヤ。逃げる準備をするから」



 私の背後でゴソゴソと音を立てながらそう言うジャックさんに私は心の中でうなずいた。


 正直に言えば、時間の稼ぎ方なんてわからない。

 今まで犯罪者と直接対峙したことなんて、あの個有スキルで作られた異空間に行ったときぐらいしかないし。

 それにあの時だって、レオンさんとオズワルドさんがいた。


 でも、今は私とジャックさんしかいない。

 不安はあるけれどジャックさんがそう判断したのなら、何らかの対処方法を思いついたのだろう。


 まあ従う・従わないにしても、女性の状態から見ればずっとこのまま助けが来るのを待つというのはよくない。

 状態からして、なんとか隙を作って医者の元に連れて行かないと。

 結界だって、いつまでももつわけでもないし。



「いったいなんなんです、あなた。いきなり攻撃だなんて、普通驚きますよ」

「おや、驚くんですか? 面白いレディだ」



 私の言葉に、仮面で見えないけれど驚いた声音の言葉が返ってくる。


 とりあえず、会話でなんとか時間稼ぎをするしかないか。

 とは言っても、どう会話しろと?

 私は、一般的な知識と思想しかない一般の成人女性ぞ?

 人を傷つけてのんきに会話しているようなヤバい人間との会話方法なんて知らないし。


 そう思っていると、仮面の男性からジットリとした視線を感じた。



「…………あなた。…………ああ、思い出しました! あなた、彼が言っていたリトルレディですね!」



 は?


 仮面の男性の言葉に、私は思わず首をかしげてしまった。


 リトルレディって、私の事?

 まず、彼っていったい誰のことよ。



「…………あの、彼って誰ですか?」

「ふふ…………はははは!!」



 疑問に思って聞けば、仮面の男性は何がおかしかったのか大きな声で笑い始めた。

 これには、背後で何かをしていたジャックさんも訝しげに見ている。


 とりあえず、なんでこの人は爆笑しているんだろう?

 私は、ただ「彼」と言う人物が思い浮かばなかったから聞いてだけなのだけど。

 だと言うのに、なぜ私は仮面の男性__しかもこの女性を傷つけたであろう犯罪者に爆笑されているのだろう。



「何がおかしいのですか?」

「いいえ。あれだけ気にいっていたというのに、まさか本人の意識の範囲内にすら入っていないなんて…………とても愉快じゃないですか」



 笑い終わったが未だにクククッと笑いをこらえている男性に聞けば、彼は心底愉快だと言いたげな声音でそう言った。


 …………文脈からして、男性が笑ったのは「彼」と呼ばれている人物なのだろう。











「愉快なのはわかりましたが、あなたはいったい誰なんですか?」

「ああ…………私は彼ほど有名ではありませんからねぇ。…………それでは、改めましてリトルレディ。私は、【切り裂きジャック】。赤色が愛おしい、どこにでもいる紳士ですよ。どうぞ、よろしく」



 まるで紳士が淑女に対して礼をするように挨拶をする男性__切り裂きジャック。


 よりによってヤバい犯罪者に出会ってしまったと思うと同時に、お前みたいな紳士がいるわけないだろうと思ってしまうのは私だけなのだろうか?


 あと、連続殺人鬼と仲良くなりたくないのでよろしくしたくないし、どうせなら今すぐ牢屋の中に入ってほしい。







次回予告:ジャック目線で語られる状況

     それと同時に、ジャックの秘められた思いの欠片が明らかに

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― 新着の感想 ―
[一言]  被ったのですねガスマスク(笑)  そしてそれで紗彩だと分かった【切り裂きジャック】が凄い(*σ>∀<)σ  まあ紗彩の態度と状況からの判断だと思いますが。
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