(122)【切り裂きジャック】とは
~紗彩目線~
「続いて【切り裂きジャック】ですが…………こちらに関しては【霧夜の民】よりはまだ情報があります。先ほど言っていた報告していたのは、【切り裂きジャック】についての情報なのですよ」
アルさんの説明に先ほどの会話を思い出す。
たしか、S級の犯罪者が起こしている事件が最近多発していることと、被害者が女の子だったこと。
でも、どうして『切り裂きジャック』なんだろう?
元の世界にも過去には『切り裂きジャック』と言う犯罪者はいた。
ゲームや小説や漫画にも出てきているキャラクターの元ネタにはなっているけど、確か容疑者は上がっていたけど未解決事件だったはず。
でも、被害者はスラム街で客を取っていた女性たち。
少なくとも、年齢からして女の子が狙われている理由がわからない。
日本人がこの世界に来ているから彼らからの知識かと思ったけれど、もしかしたら関係ないのだろうか?
「【切り裂きジャック】は正体不明の連続殺人鬼です。被害者は、年齢関係なく全員女性です。主に背中や腹部を切り裂かれており、死亡者がほとんどです」
アルさんの視線がどこか刺々しくなるのを感じながらも、今までの情報を思い出しながら考える。
被害者は、全員女性。
たしか、元の世界での『切り裂きジャック』の被害者は喉を切られた後に腹部も切られていた。
でも、この世界での【切り裂きジャック】は背中や腹部を切られている。
一応、『女性が被害者』と『腹部を切られている』という共通点はある。
…………と言うか、何故被害者が女性だけ?
男性より女性の方が襲いやすかった?
でも他の国は知らないけれど、獣人の国では男性よりも女性の方が強い。
精神面でも物理面でも。
別に男性が弱いんじゃなくて、本能的に女性の方が優位に立ちやすくて、母性本能から強くあろうと無意識に力をつけるらしい。
そこから考えると、獣人の国では女性よりもまだ男性を襲った方が勝ち目はありそう。
でも、女性が狙われた。
ということは、被害者が女性でなければいけなかった?
それとも、獣人の中では女性の方が強いということを知らなかったとか?
そう自分で考え、自分で否定する。
獣人の本能の部分は、竜人と同じく他の国でも知られているらしい。
ということは、【切り裂きジャック】が知らなかった可能性が低い。
なのに男性ではなく、わざわざ女性を狙った。
この世界には、魔法だけでなく『個有スキル』なんてものまで存在している。
女性を狙わなければいけないということは、もしかしたら女性相手に優位に立てる個有スキルなのだろうか?
「…………被害者が出てないのって竜人の国だけじゃない?」
「それはそうよ。あの子たちの肌って、防御魔法よりも硬いのよ? 傷つけようとした時点で気づかれて捕まっているわよ」
「…………子供狙うとか?」
「そんなことしていたら、この殺人鬼は今頃あの世に行っているわよ」
考え込んでいると、ノーヴァさんとセレスさんの会話が聞こえてくる。
彼らの話に、私は心の中で納得してしまった。
今まで得た知識からして、竜人の子供を狙うってことは彼らの地雷の上でタップダンスをするようなものらしいし。
なんとなく、竜人の国で傷害や殺人みたいな大きな事件がないのがわかる気がする。
物理でも防御でも最強な竜人をわざわざ怒らせたいとは思わない。
でも、女性相手に優位に立てる個有スキルであれば竜人の女性でも無効化はされないはず。
なのに襲われていないということは、有利になれるのは防御や精神面ではなく物理的な能力の部分なのだろうか?
防御対防御では意味があまりないし、精神系の個有スキルであれば操るなりして襲えるようにするはず。
物理であれば、物理面でも防御面でも最強な竜人に手が出せなかった理由も納得できる。
「【切り裂きジャック】と命名された理由は、攻撃方法と被害者ですね。神人族が持っていた書物の中に出てくる『切り裂きジャック』という魔物に、攻撃方法などが似ていることから仮の名として名づけられました」
アルさんの言葉に、思わず心の中でツッコミをいれてしまった。
アルさん…………『切り裂きジャック』は魔物ではなく犯罪者です。
「情報からして、【切り裂きジャック】の攻撃方法は剣など近接系の武器を用います。サーヤの道具の攻撃方法では近づかれてしまえば不利になりますので、今回の依頼は近接でも使える武器を作ってほしいのです。できれば、一目見て武器だとはわからないような物を」
真剣な雰囲気で言うアルさん。
まあ、アルさんの言葉も確かにとしか言えない。
私の道具は、基本防犯や撹乱をメインとした物が多い。
確かに攻撃力がある物もあるけど、それは近づかれてしまえば封じられてしまう。
武器だとわからない攻撃力のある物…………百科事典とか?
角で殴られると結構痛いし、見た目はただの分厚い本だし。
うーん…………これはちょっと難問だな。
次回予告:突然来訪する王子レオン
紗彩「アポイントぐらい取ってから来てくださいよ。報・連・相は、社会人の基本中の基本でしょう?」




