(121)【霧夜の民】とは
~紗彩目線~
「【霧夜の民】とは、闇夜に乗じたり霧で周囲が把握できないときに奇襲を主な戦法で襲ってくる盗賊団です。一応盗賊団と言われていますが、実際には暗殺もやっているなどいろいろな噂がありますね」
書類を見ながら、説明してくれるアルさん。
闇夜に乗じたり霧で周囲が把握できないときに襲ってくるから、『霧夜の民』って呼ばれているのか。
「彼らはかなり狡猾で目的のためならどんな犠牲だってものともしない者たちで、我が国だけでなく各国から危険視されている犯罪者集団です。今までの情報からして、【霧夜の民】の構成員はほとんどがA級です。また、幹部メンバーには実力や思想からS級が少なくとも三人所属していることがわかっています」
アルさんの説明に驚いてしまう。
A級もS級も、ヤバい思想を持っている犯罪者たちだ。
ほとんどがA級ってことは、それだけ厄介な相手ということ。
そう考えると同時に首をかしげてしまう。
ヤバい思想を持っている人たちって、集団行動って出来るのだろうか?
思想が違えば、それだけぶつかり合うと思うんだけど。
でも日本でも思想が変わった宗教が起こした事件もあるから、ある意味思想が同じであれば集団行動もできるのかもしれない。
「S級・A級の数は、ともに【霧夜の民】が最も多いと言われています。そのため、彼らと遭遇した時は全力を持って対処しなければいけません。そうでなければ、こちらが殺されます」
「実際アタシも遭遇したことはあるけれど、本当に理解できない奴らよ。平気で、仲間を捨て駒にしているもの」
「…………仲間意識はなさそう…………どうして一緒に行動しているのかがわからない」
真面目な声音のアルさんの言葉に続くように、セレスさんとノーヴァさんがどこか苛立ったような声音で言う。
二人が苛立つ理由は、なんとなくわかる。
今まで暮らしていて、獣人が仲間意識が高いことがわかった。
だからこそ、仲間を平気で捨て駒にできる『霧夜の民』に怒りを抱いているんだろう。
私としては、捨て駒にされるかもしれない相手と一緒なんて怖いと思うんだけど。
…………ああ、だからそれも含めて思考がヤバいのか。
自分の考えに納得して、思わずうなずいてしまった。
「S級もね、全員で三人とはまだわかっていないのが痛いね。本当に三人なのか、まだわかっていない者がいるかもしれないのか」
困った表情で言うジョゼフさん。
…………まあ、確かにそれは困る。
絶対に三人しかいないとわかっていれば、それを地盤にいれて作戦を立てることができる。
逆に確定事項ではないと、それはそれで不安だ。
特に、相手はS級だし。
「今までの情報からわかっているのは、アルが言ったことのみ。他の国も情報は欲しいようだが、相手が厄介すぎて下手に行動できない。それもそうだ。下手に失敗すれば、自分や仲間の命だけじゃない。民衆の命も危なくなるからな。…………それだけ、厄介で残忍な奴らだ。命をなんだと思っているのか、簡単に他者の命を消す。そんな奴らだ」
ピリピリとした雰囲気を纏い、苛立ちを隠さずに言うシヴァさん。
厄介で残忍。
シヴァさんの言った言葉は、まさにその言葉のとおりだ。
でも捨て駒にするってことは、情報をこちらにわたっても捕まらない自信があるのだろうか?
それとも、捨て駒になる構成員は重要な情報を持っていないとか?
それか絶対に話さないという自信があるほど、構成員は忠誠心が高いとか?
「サーヤに彼らのことを言ったのは、あなたが獣人騎士団の所属となったからです。騎士団所属となった以上、一般人よりも関わってしまう可能性が高くなりますからね」
「…………なるほど」
アルさんの言葉に納得がいった。
確かに、騎士団の方が犯罪者と関わることが多くはなるわね。
技師の私がその中で危険な犯罪者に当たるのは、本当に私の運次第なんだろうけど。
次回予告:殺人鬼とか元の世界だけでいいです!!by紗彩




