(120)朝食後の会議
~紗彩目線~
一言、言いたい。
「では会議を始めたいと思いますが…………いない方はいませんよね?」
「…………いない」
私の右隣に座っているアルさんの言葉に、アルさんの目の前に座っているノーヴァさんが首を横に振りながら答える。
…………なんで、こうなった。
朝食を食べ終わった私は、なぜかシヴァさんによってそのまま会議室に連れて行かれた。
その行為に、私は思わず首をかしげてしまった。
会議室は、一時期使えなかったけれどいつも会議をする部屋だ。
だと言うのに、なぜ私はこの部屋に連れてこられたんだろう?
いつも、私は朝食のあとは勉強をしながら道具の開発案を考えている。
道具で作ってほしいものがあればシヴァさん達から資料を渡されて直接頼まれるから、道具の開発関係で会議室に呼ばれることはほとんどない。
ということは、道具関係以外で会議室に呼ばれたのだろうか?
そう思っていると、アルさんがシヴァさんたちを見回す。
「さて、それではまず近況報告からですね。順にお願いします」
アルさんの言葉に、思わず頭を抱えてしまいたくなってしまった。
待って?
明らかに、ここにいるのがおかしい人がいるでしょ?
私がここにいる理由を知りたいですけど。
そう思ったけれど、とりあえず進行を妨害するわけにもいかないから口は挟まなかった。
「じゃあ、アタシから。そうねえ。例のS級の事件が多発しているってぐらいかしらね」
「…………やはりですか」
シヴァさんの手前に座っているセレスさんは真剣な表情を浮かべながら、アルさんに報告している。
S級と言えば、かなり強い実力を持っていて非道徳的な思考や思想を持った犯罪者のことだったはず。
S級の犯罪者に会ったことはないけど、聞く限りじゃあかなり危険な相手。
そんな犯罪者が起こしている事件が多発?
さすがに、それはかなりまずいんじゃ。
「…………こっちも。子供が狙われた。性別は、やっぱり女の子」
「年齢は関係なしということですね」
ノーヴァさんの報告に、アルさんは考え込んでいる。
年齢が関係なしってことは、子供だけを狙っているってわけじゃないのか。
やっぱりということは、今までの被害者も女性だったということか。
それも多発しているってことは、無差別に女性を狙っているのか、それとも被害者を襲ったけど狙っていた相手ではなかったから口封じ?
実際、元の世界でも相手の情報が少なかったからその情報にあう人間を襲ったという連続殺人事件が過去に存在した。
そう考えると、アルさん達の情報からしてこの二つの可能性が高そう。
とは言っても、私は警察官ってわけじゃないからミステリー小説での知識しかないけど。
「私からもいいかい? どうやら、模倣犯も出てきているようだよ」
「模倣犯ですか?」
「ああ。あまり深い部分は公表してはいないからか、それぞれで違いがある。模倣犯は、少なくともニ・三はいるだろうね」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべたジョゼフさんの言葉に、アルさんはとうとう頭を抱えてしまった。
模倣犯というと、確かマスコミで報じられた犯罪を細部まで真似て事件を模倣する奴らのことだったはず。
ということは、女性たちはS級の犯罪者だけでなく模倣犯たちにまで狙われているってことか。
…………アルさん達が頭を抱えたくなるのもわかる気がする。
ただでさえ厄介な犯罪者がいるのに、それを模倣する馬鹿までいるんだもの。
「…………面倒ですね」
「まあ、低能な奴らは何処にでもいるわよ。迷惑だけど」
疲れたようにつぶやくアルさんと、どこか小馬鹿にしたような声音で言うセレスさん。
お疲れ様です、アルさん。
「団長」
「…………まず住民には女だけでなく、必ず複数の男と行動するように発表するぞ。あとは警備を増やすことと、夜は鍵をかけて絶対に家から出ないようにさせる。…………今は、これぐらいしか対策ができない」
「さてここにサーヤを呼んだのは、とある依頼と警告のために呼びました」
「依頼はわかりますが…………警告?」
アルさんに呼ばれたシヴァさんは、真剣な表情で考えた後そう言った。
まあ、確かにそれぐらいしか対処法はなさそう。
今までの話からして、たぶん犯人の情報はかなり少なそうだし。
そう思っていると、アルさんと目が合って驚いてしまった。
依頼と警告?
依頼なら、たぶん道具のことだろう。
でも、警告?
…………もしかして、S級の犯罪者のことか?
狙いが女性なら、私もその対象になるし。
「はい。依頼は後で話しますが、警告は一つ。【霧夜の民】と【切り裂きジャック】に注意して、絶対に一人では行動しないことです」
次回予告:【霧夜の民】について説明される紗彩




