(116)逃亡阻止
~ジョゼフ目線~
「ふむ……」
朝になり着替えた後、私はベッドに腰かけて予定表の紙を見る。
あの暗殺者を引き入れたのはやはりレオン様のようだった。
理由は、沸いてきた暗殺者たちを一網打尽にするためだったらしいが。
まあ、あの方はよくそうやって上手く暗殺者たちを捌いているからな。
ただ、最近は小さな事件がたびたび重なっている。
私としては、時期的に流行り病が出やすい時期だから流行る前に健康診断をしたいのだがな。
ただ、小さい事件が連続して続いているのが気になる。
…………とりあえず、一応シヴァ君に打診してみるか。
そう思いながらドアを開け廊下に出れば、まだ早い時間だからか歩いている者は少ない。
この時間だとシヴァ君はまだ起きていないだろうけど、まあ早起きは健康にもいいからしばらく散歩でもしようか。
そう思い歩き出せば、時折出会う騎士たちに朝の挨拶をされる。
それに返していれば、少し先に見慣れた背中が見えた。
あの小さな背中は、ジャック君だろう。
サーヤ君が来るまでは騎士団の中では最年少の彼は、今ではサーヤ君のいい兄貴分になっている。
ただ、今日の彼はどこかいつもある覇気がないようにも感じる。
「やあ、ジャック君。おはよう」
「あ…………おはようございます、ジョゼフ先生」
彼に声をかければ、振り返ったジャック君の顔色の悪さに気づく。
いつも笑顔を浮かべている彼が、今日はどこか不安定な暗い表情を浮かべている。
いったい、何があったのだろうか?
そう思っていると、今の時期を思い出す。
そういえば、この月はジャック君が昔騎士団に保護された時期と同じだ。
もしかしたら、あの頃のことを思い出して何か嫌な思いをしたのだろうか?
「…………元気がないようだけど、大丈夫かい?」
「…………いえ、大丈夫です」
そう思い聞いてみたが、ジャック君は首を振りお辞儀をした後行ってしまった。
…………ふむ。
無理矢理聞き出すのもよろしくないが、気を配っておこう。
ため込んで爆発してしまっては、本人にとっても周りにとってもよろしくないからな。
そう思い再び歩き出すと、曲がり角のところでシヴァ君と彼に抱き上げられているサーヤ君を発見した。
おや、ちょうどいい。
「やあ、おはよう。シヴァ君、サーヤ君」
「おはよう」
「おはようございます、ジョゼフさん」
軽く朝の挨拶をしてから、本題に入った。
本題は、健康診断週間の実施の提案だ。
最近は忙しいとはいえ、集団で動く我々が下手に病気にかかるわけにはいかない。
集団行動を主としているため、広まるのも早いし何より治安の維持に集中することもできなくなってしまう。
だからできれば、流行り病が出やすい時期が出る前に済ませておきたいのだがね。
そう思っていると、サーヤ君が健康診断週間について質問してきた。
そういえば、彼女は一か月前に来たばかりだから知らなかったね。
「まあ、こんな感じかな」
「何か、手伝えることはありますか?」
「それなら、ぜひ手伝ってくれないかい? 何しろ、中には暴れる者や逃げようとする者もいてね。君がいれば、それを防止することができるよ」
「はい」
わかりやすいように説明すれば彼女に聞かれたから、彼女に監視を頼むことにした。
何しろ、ほとんどが成人しているというのに予防注射が嫌で逃げる者もいるからね。
少なくとも最年少で女性のサーヤがいれば、逃げだしたり暴れたりなど恥ずかしい行為はできないだろうからね。
まあ本音を言うのなら、いい加減注射のたびに魔法を使って拘束するのが面倒なだけなんだけどね。
もし彼女の前でやった場合は…………少々お説教、いやお話合いが必要だね。
次回予告:意識が正常でない時ほど、獣人は本能に近い




