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(113)あやふやな存在

~レオン目線~



 夕方になり、俺とオズワルドは騎獣(きじゅう)に乗って城に向かって移動していた。


 そういえば、サーヤは走る速さが少しは早くなったようだが俺達からすればまだ遅い。

 騎獣を与えた方がいいな。


 騎獣は、もしもの時のために体力を温存するために乗っている主従関係を築いた魔物だ。

 もしもの時には、主を守るために自身を盾にすらする生き物だ。


 移動速度と護衛という面で、サーヤにも何匹か見繕うか。

 何しろ、騎獣と主従関係を結ぶにはある程度の相性が必要だからな。


 それにしても__



「いやあ、上手くいって良かったな!」

「まったく、お願いですから勝手なことだけはしないでくださいよ」



 あまりに簡単に物事が進んだから笑ってしまえば、隣で並走しているオズワルドに釘を刺されてしまった。

 心底迷惑だと言いたげな声音に、俺は思わず心の中で笑ってしまう。


 お前もシヴァも、本当に俺の扱いが雑だな。

 まあ、だからこそオズワルドやシヴァのことは信頼できるんだがな。

 下手に俺にすり寄って、汚い手で俺を殺そうとしてくる奴らよりも何万倍も良い。



「だいたい、なぜあのような面倒事を? 彼女の精神状態からして、命令したとしても断ることはしないと思いますが」

「はは、何を言うんだ。俺の命令とは、最も強い強制だ。何の罪も犯していない彼女に言うわけないだろう」



 訝しげに俺を見るオズワルドに、俺は困惑しながらも言う。


 俺が命令を出すのは、相手によほどの危険が迫った時と相手が犯罪者の時だけ。


 だって、そうだろう?


 王族の俺が命令を出したら、相手は意思とかは関係なく本能的に従ってしまう。

 いくら知能や感情があるとはいえ、獣人は先祖である獣の能力が濃く受け継がれている。


 だからこそ、強者であればあるほど本能的に従ってしまう。

 そこには心がない。

 だから、俺はできる限り命令はしない。


 何より__



「何より、立場だけではなく彼女本人の意思(・・・・・・・)も必要だろう?」



 別に命令してしまえば簡単だ。

 彼女に獣としての本能があるかはわからないが、非常に冷静であり頭もいい。

 自身を保護しているシヴァたちの立場のことを心配して従うだろう。


 だが、それじゃあだめだ。


 本人が望んだから、という事実がなければ彼女を守ることはできない。

 強制した場合、彼女が狙われた時にその隙を突かれてしまうからな。


 何より、最近は魔族の国がきな臭い。



「お前も知っているだろう? 最近、あの蛆虫どもがおかしな動きをしていることを」

「ええ」

「そんなときに、シヴァが養女を迎えたという情報が入ってみろ? 彼女は、あの蛆虫どもに利用されてしまうぞ。能力はない癖に、無駄に悪知恵だけは働かせるからなぁ。…………蛆虫は蛆虫らしく、腐肉にでも群がっていればいいものを」



 自分で言っていながら、思わず殺気立つ。


 魔族の国にいる蛆虫ども。

 シヴァを否定し、彼の母を追い詰め死に追いやった奴ら。


 彼奴等はシヴァが騎士団長に就任してからというもの、たびたび俺達の国に難癖をつけに来る。


 時々思う。

 彼奴等は俺達の立場を知らないのか、と。


 そんな奴らが、最近おかしな動きをしているとなれば何かが起こると警戒しなければいけない。

 だからこそ、こんな回りくどいことをした。

 彼奴等に隙を与えないように。


 やっとシヴァの前に現れてくれた希望の光を奪われないように。



「落ち着いてください、レオン様。あのような汚物でも、一応立場はありますからね。あなたの立場では、聞かれては面倒事が起きてしまいます」



 殺気が漏れ出ていたのか、顔色を悪くしたオズワルドが言う。

 …………ごめんな?


 というか、お前汚物って…………。

 蛆虫扱いしている俺が言うのもなんだが、ちょっとどうかと思うぞ。

 まあ、お前もなんだかんだと言ってシヴァの事大好きだもんな。



「…………それにしても、あの暗殺者が死んだというのは本当のようですね」

「だな。俺の予想だと、あの蛆虫どもが関わっているのかと思ったんだがな。何しろ、あちらさんはシヴァを騎士団長に任命したことを納得していないようだしな」

「ええ…………ですが、汚物たちでないとすればいったい……」



 オズワルドが話題を変えようとしたのか、そんなことを話しだした。


 シヴァがいない間に、副団長のアルから教えられた情報。


 監視の役目を担っていた騎士__グレイの話だと悲鳴が聞こえて入って瞬間、暗殺者がいた牢は血で赤く染まっていたようだった。

 壁には、何か大きな獣でひっかかれたような大きな爪のような跡。


 オズワルドは、蛆虫どもを疑っていた。


 まあ、確かにシヴァの小さな失敗すら目ざとく見つけて中傷するような性根が生ゴミのように腐った奴らだからな。

 俺も、あの現場の状態を伝えられなきゃそう思う。


 正直に言えば、殺し方だけで相手が誰なのかわかってくる。



「現場の可能性からして、一人だけ可能性がある奴がいるぞ?」

「なっ、ですが奴は竜人の国にいるはず。あの国とわが国では、かなりの距離がありますしいくつかの谷や山が間にあるのですよ」

「さあな。何しろ、いまだに個有スキルどころか素顔すら不明な存在だからな。だからこそ、異常な事態には最大限に警戒する必要がある」



 俺の言った言葉に、同じ存在を思い浮かべたのかオズワルドが顔色を悪くして反論した。


 そうだな、それは俺も思いたい。

 S級の指名手配犯なんて、こっちとしては国に入れたくない存在だからな。


 実際、S級は数が少ないからな。

 霧夜の民なんて、S級がニ・三人ほど在籍しているらしいが。


 だが、奴が来たとなると早急に対処法を考えなければいけない。

 …………できれば関わらせたくないが、サーヤにも力を貸してもらうか。

 本人の身体能力はともかく、彼女が作り出す道具はかなり優秀だ。


 …………それにしても、サーヤは本当にどういう立場だったんだろうな。

 サーヤを個有スキルで見た時もそうだが、彼女はあまりにもあやふやな存在だ。

 あえて言うのなら、精神と体が明らかに平衡していない。


 俺の個有スキル『白黒の断罪者(ジャッジメント)』は、自身の目を通して相手の精神状態や身体などを調べ、思想や相手のスキルや状態などを知ることができる個有スキルだ。

 いわば、情報収集に適したスキルである。

 デメリットは、長い時間使用していると目が痛み、最悪失明する可能性がある部分だな。


 今まで、俺はいろいろな奴らをこの目で調べてきた。

 だが、彼女のような状態の存在は一つだけしかいなかった。


 前にあったとあるA級の犯罪者の非人道的な実験。

 一人の獣人の魂を、魔物の体の中にいれて頭のいいペットを作り出すという実験。


 言っていることは全く理解ができなかったがな。

 というか、理解したくもない。


 あの時の被害者の状態と、サーヤの状態がそっくりなんだ。

 被害者は結局自殺してしまったが、サーヤの状態からしてあやふやではあるが非常に安定している。


 彼女は他の大陸から来たらしいから、もしかしたらそこで非人道的な実験が行われていて彼女はその被害者なのだろうか?


 だが、そうなるとなぜ彼女はあの森にいたんだ?

 サーヤの安定具合からして、彼女は立場的には成功作の方に入るはず。

 狂った研究者のようなタイプの犯罪者なら、わざわざ成功作を逃がすはずもない。


 そうなると、彼女を逃がそうとした者がいた?


 確か、今までの報告から母親以外の大人は敵だったはず。

 ということは、その母親が逃がしたのだろうか?


 …………まあ、どちらにしても彼女はシヴァの保護下に入った。



「なあ、オズワルド」

「はい」

「俺はな。この国にいる国民たちに幸せになってほしいんだ。あ、犯罪者は抜いてな?」

「はい」

「だからこそ、シヴァも新しい家族になったサーヤも守りたいんだ」



 俺がオズワルドにそう言えば、オズワルドは律義に反応を返してくれる。


 俺は、俺の個有スキルの内容を知った時から王になるつもりだった。

 姉さんには悪いけどな。


 だって、そうだろう?

 明らかに情報収集に適したスキルを、国を守る以外にどうやって使えって言うんだ。


 俺は、百獣の王と呼ばれたライオンを祖先にもつこの国の王子だ。

 だからこそ俺は、俺の国の国民を守りたい。

 というか国民だけじゃなくて、この国の中にいる奴らを守りたい。



「あの子が、どういう身の上なのかは知らない。でも、子供ってのはもっとのびのびに育って馬鹿なことやって叱られて、たくさん幸せと失敗を体験して育っていくべきなんだ。だからさ…………危害を加える奴らはみぃんな嚙み砕いちまっていいよなぁ?」



 俺がそう言えば、オズワルドもまた笑いながらうなずいた。


 オズワルド、俺もお前のこと言えねぇがその笑顔は絶対にサーヤに見せるなよ?

 下手したら、泣かれるぞ。


 そして、蛆虫どもとサーヤを傷つけたクズ共。

 百獣の王は懐に入れた奴には寛容だが、獲物と敵には容赦がないんだぜ?


 というわけで、覚悟してくれよ。

 蛆虫どもも、サーヤを傷つけた奴らも。

 百獣の王の保護下に入った以上、敵には報復はきっちりとさせてもらうぜ?


 脳筋だろうとなんだろうと言われようが関係ねぇ。


 結局は、強者こそが正義なんだ。

 弱者の、しかも非人道的なことを平気で出来るようなクズ共に負けるほど俺達は弱くはねぇ。


 やられたからには、きっちりと落とし前をつけさせてもらうぜ。







 それもまた、俺達の復讐(礼儀)ってやつだな。









次回予告:交流編の最終話

     裏側の話であり、暗殺者の死亡時のとある二人の会話


     ?「飛び散った血ほど、美しい花はありませんね」

     ?「どーでもいいけど、チビちゃんはどんな反応を示すんだろうね~」



【今現在の勘違い】→【実際は……】


・帰らずの森に捨てられていた訳あり幼女

 →幼女ではなく、背が低い成人女性

・魔法の存在を知らされていなかった

 →まず存在していなかった

・母親以外は味方ではなかった

 →まともな親でまともな子供であれば心配もする

・まともな食事を与えられていなかった

 →完全に紗彩が悪い

・仕事(子供はしなくてもよい)があった?

 →成人しているので、就職している

・負の遺産である土下座(命をささげて謝罪する)を平気でする

 →価値観や文化の違い

・子供らしくはないが、子供らしい残酷さを合わせ持っている

 →成人しているし、残酷さではなく単純な疑問

 (わかっていて嫌なら、なんで子供産むの?子供産むのなら、その子の人生とかもしっかりと考えてから産むべき)

・周りの大人は敵で、子供は味方だった?

 →これこそ、認識の違い

・竜人かリザードマンの友がいたが、亡くなった?

 →リザードマンのハーフにペットは言いにくい

・肉体労働=身売りをしていた?

 →肉体労働=バイト

・役立たずはいなくなれと言われていた?

 →先輩が役立たずな後輩や同僚や上司に向けた言葉

・人体実験の被験者?(NEW!)

 →そんな事実はない。復讐相手も、シヴァを虐げた奴ら以外は存在しない


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