(106)異空間の主は見えないだけ
~紗彩目線~
ジトリと、どこからか視線を感じる。
トゲトゲとしていて、もし視線が刃物であれば私は今ごろ串刺しになっているんじゃないかって思うぐらい嫌な視線。
たぶん、恨みとか殺意とかそういう嫌なタイプの視線だろう。
これだけ、嫌な視線なんだ。
なんとなく、その視線を感じる方向がわかってしまう。
感じるのは、後方__レオンさんがいる方向だ。
とりあえず、いつでも投げれるようにさりげなくレオンさんの影に移動してカバンの中からある道具を取り出す。
「そこかっ!!」
道具を取り出した瞬間、私の左横をビュンッと風が通った気がした。
気付けば目の前にいたはずのオズワルドさんが消えて、振り返ればレオンさんの後ろで剣を振り下ろしていた。
それと同時に、侵入者本人がいる場所も見つけた。
なんて言うんだろう?
蜃気楼?
侵入者本人は見えないけれど、微妙に周りの景色とは違い歪みがあるように見える。
たぶん、侵入者本人は透明に似た状態になっているんだろう。
そしてオズワルドさんの攻撃を避けたところを見ると、透明というよりは見えないようになっただけで攻撃は効くということだろう。
それなら__
「逃がさない!!」
「うわっ」
私はオズワルドさんの隣に行き、取り出していた道具を侵入者がいるであろう場所に向かって投げた。ちなみに、私が投げたのは『カラーボール』という対変質者用の道具だ。
オレンジや黄色などの暖色の絵の具に明かりのように光らせる光魔法をかけた『発行塗料もどき』と、唐辛子や刺激臭のある草をすりつぶして混ぜ込んで【硬化魔法】でボール状に固めたものだ。
これもまた『唐辛子の球』と同じように、私達に対して悪意などの負の感情を抱いている人に当たると硬化魔法が解除されるように作ったものだ。
発行塗料もどきは昼間でも光っているとわかるぐらいだから、この暗闇の中ならどこにいるかは一発でわかる。
私の目論見通り『カラーボール』は侵入者に当たった瞬間元の状態に戻って、侵入者を黄色とオレンジが混ざったような色合いに染まった。
「よくやった、サーヤ!!」
「あ…………逃げてしまいました」
オズワルドさんに言われるけど、光る蛍光色の人物は走り去ってしまった。
「だが、あれならこの暗さだ。非常に見えやすくなる。…………にしても、なんなんだあの微妙に鼻につく臭い」
「唐辛子や臭い草などを用いた物です。もともと、あれは対変質者用の道具ですから」
オズワルドさんに聞かれ言えば、レオンさんが首を傾げた。
なんで変質者用なのかといえば、光って刺激的な匂いをしていれば襲われて撃退した後も騎士とかに不審者として職質されるようにだ。
個人的に、そのまま変態ってことがバレて社会的地位を失ってほしいけど。
「なんで、変質者用なんだ?」
「変なことをされそうになったこれを投げれば、相手は逃げるでしょう?あの色合いと臭いであれば、巡回の騎士に不審に思われると思うので。あと個人的に、相手が性犯罪者であれば社会的地位を失ってほしいなとも」
「ぶほっ」
「…………容赦がないな」
レオンさんに聞かれたから答えれば、オズワルドさんがひいた目で見てきた。
そして、レオンさんはというとまた爆笑している。
この人の笑いの沸点が本当にわからない。
性犯罪者に関しては、欲望に忠実だから発情期の猿と同類だから別に人権なんていらないと思うけど。
まあ、被害者の心の防衛すらも理解できないような生ゴミ共と同じ人間とは思いたくもないし。
そう思いながら進んでいると、廊下の真ん中でいくつかの人影が見えてきた。
「ナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタナンデイレタ」
「ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ」
「ひいいいいいいいいいい」
「トクシュセイヘキジャナイ。コレトイッショハイヤダ」
「なんで入れた」とブツブツとつぶやく落ち武者さん(首は取れたまま)。
「許さない」とブツブツとつぶやくテケテケさん。
その二人の間で悲鳴をあげながら震えている発光物体(侵入者)。
そしてそんな発光物体(侵入者)をツンツンとつついている、廊下の床から生えている二本の黒い腕。
…………どういう状況、これ?
「集団いじめか?」
「侵入者の自業自得だと思うのですが」
レオンさんが首をかしげながら言うけど、私は違うと思いながらそう言う。
「なんで入れた」っていうのは、たぶん私達のことだろう。
なにしろ、明らかに怪異は私の近くにいるこの二名の被害者だし。
まあ襲われたから正当防衛ではあるけど、あれは完全に過剰防衛だし。
というか、ホラーが苦手ならなんでわざわざホラーにしたんだろう?
閉じ込めることを狙いとしているんなら、別にホラーじゃなくても美女のハーレムとかなら喜んで引きこもりそうなのに。
「とりあえずそいつを捕まえなければいけないので、周りにいる奴らは斬り伏せますか」
「ヒイイイイイイイイイイイイ」
ため息を吐きながらオズワルドさんが言えば、まるで蜘蛛の子のように発光物体(侵入者)の周りから怪異が逃げていく。
いや、完全にトラウマになってるじゃん。
もう、やめてあげてよ。
次回予告:無事に異空間から脱出を果たした紗彩
疲れ切った彼女はセレスに癒されるが、レオンのとある一言でまた疲れてしまうのだった
紗彩「なんなの?王族って、なんでこんなに自由人過ぎるの?え、マイペースなのが普通なの?」
劇場:[3]~二宮金次郎像を見て~
紗彩「思ったのですが、二宮金次郎像のような銅像ってあるのでしょうか?」
二宮金次郎像を思い出し首をかしげる紗彩。
レオン「あるぞ? というか、魔法を使えば余裕で作れるぞ」
紗彩「それなら、動く銅像を使って本部に敵が侵入しないように防ぐというのはどうでしょう?」
レオン「なるほどな」
レオンに言われ、何かを紙に書きこみながら言う紗彩。
その紙には、とある物の絵が描かれていた。
紗彩「こんな感じの銅像って作れますか?」
レオン「大丈夫だ」
―――――――――
一人の男性の騎士が、夜の見回りを行っていた。
ゴリゴリという音と共に何かの気配を感じ、その方向を見れば__
騎士「きゃああああああ」
なんと、そこには某大阪にいるグ○コのシャツを着た男性の像が両手をあげたまま迫ってきていたのだった。
ちなみに、紗彩はこの後シヴァに怒られたのだった。
紗彩「…………なんで怒られたんだろう?」




