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(102)台所の老婆の邪魔はダメ

~紗彩目線~



 廊下の怪異を倒した後、私達はキッチンに来ていた。


 周囲を警戒しながら進んでいけば、キッチンが見えてくると同時にシャッシャッという音が聞こえてくる。



「なんだ、この音?」

「…………音的に、剣を手入れしている時の音に似ていますね」



 レオンさんのとオズワルドさんの会話に、思わず彼らを見てしまった。


 いや、剣って刃物じゃん。

 キッチンにある刃物なんて包丁しか思いつかないし。


 音的には、包丁を研ぐ音。


 ということは、あれか?

 何かはわからないけど怪異がいて、包丁を研いでいる最中に悲鳴とか上げたことで襲ってくるとか?


 包丁を持った怪異って言うと山姥しか思い浮かばないけど、山姥って山にいるんじゃなかったっけ?


 …………いや、この空間の中では関係ないか。

 路上とかにいるって噂だったテケテケがいるぐらいだし。



「剣__刃物か。キッチンなら、包丁のたぐいだな。とりあえず、攻撃に備えるぞ」

「はい」

「わかりました」



 レオンさんの言われて、カバンの中にある『爆散札(ばくさんふ)』を持つ。

 相手が逆上する可能性もあるけど、使える物は使った方がいい。

 さっきみたいに襲われた時に、いろいろと出そうとしていたらその一瞬の隙が命取りになるだろうし。


 そう思いながらキッチンの中を覗くと、一人の老婆が床に座り込んでいた。

 その手元には一本の包丁と、その包丁を研ぐための砥石。


 包丁は、形からして出刃包丁だろう。

 元の世界の包丁の何倍も大きいけど。


 老婆は、静かに包丁を研いでいる。


 廊下と同じく暗めのキッチンで、黙々と包丁を研ぐ老婆。

 しかも、なぜか老婆の周りだけ不自然に明るい。

 …………これ、山姥説が強い気がする。



「…………あれは、包丁ですかね?」

「そうみたいだな!いいか、サーヤ。ああやって、道具は定期的にしっかりと手入れしないとだめだからな?じゃなきゃ、いざという時に使えなくなるぞ」



 オズワルドさんが呟いた言葉に、レオンさんが答えながら少し声量を抑えた声で言ってくる。


 というか、今の状況下でそれを言うんですか。

 いや、手入れの大切さはわかるけど。

 なんでそれを今言うんですか、この人。


 そう思っていると、老婆がこちらを見ていることに気づいた。


 オズワルドさんとレオンさんは老婆を無視して声量を抑えて話しているけど、老婆はそんな私達を「え?」と言いたげな驚いた表情を浮かべていた。


 …………これ、悲鳴を上げるのが正解なんじゃないだろうか。



「とりあえず、ここを離れますか。集中をかいて怪我をさせてはいけませんし」



 オズワルドさんの言葉に、私は思わず脱力して思ってしまった。


 いや、そうなんだけどね?

 確かに、合っているんだけどね?

 でも、この状況下での判断ではないと思う。


 …………この人たち、絶対にお化け屋敷とかはいろいろな意味で平気な人だ。

 たぶん、お化け役の人がいろいろと精神的にダメージを負うパターンだ。


 というか、私はいい加減心の中でツッコみをするのが疲れてくるんですけど。



 そう思っていると、老婆がオズワルドさんの言葉を聞いたからか非常に優し気な笑みを浮かべている。


 なんだろう。

 例えるのなら、孫が頑張って作った少し不格好なプレゼントを貰って喜ぶお婆ちゃんだ。


 そんな感じの、すごく微笑ましげだと言いたげな優しい表情を浮かべている。


 …………あれ?

 あの人、怪異じゃなかったっけ?


 え、怪異だよね?

 もしかして怪異じゃなくて、この空間に閉じ込められている無関係の優しいお婆ちゃんだった?



「ああ、そうだな。行くぞ、サーヤ」



 レオンさんに言われ手を引かれると、老婆は私達に向かって手をフリフリと左右に振った。


 思わず私も手を振り返すと、老婆はホケホケとしたどこかほのぼのとした表情を浮かべた瞬間姿を消した。




 玄関を叩き斬って、落ち武者も斬って、上半身だけの怪異を吹っ飛ばした先に出会った怪異は、とてもやさしそうなお婆ちゃんでした。






次回予告:瞬間接着剤は、どんな時も役に立つ



紗彩「これから出会う怪異も、あのお婆ちゃんみたいなのがいいな」


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